第5回 スペインの国王と日本の天皇について比較しよう

最終更新日: 平成29年(西暦2017年)7月12日

はじめに

今回から本格的な「スペイン法入門」の学習に入っていきます。

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これまでスペインの歴史を駆け足で見てきて、フランコの死亡後にスペインの民主化に寄与してきたのがホアン・カルロス1世であったことは分かったと思います。

ところで、スペインの君主である「国王 (Rey)」は法的にはどのような権能を有するのでしょうか。この点について、我が国には「天皇 (Emperador)」がいらっしゃいますが、スペインの国王と日本の天皇にはどのような違いがあるのかについて興味を抱くことは、「スペイン法」を学習する者にとって自然な感情ともいえます。

そこで、今回は以下に示すポイントに絞って解説をしたいと思います。

  1. 憲法上「天皇」または「国王」の地位についてどのような規定が置かれているのか。
  2. 「天皇」や「国王」は国家権力を有する国家機関に対してどの程度関わることができるのか。(国事行為の問題)
  3. スペインの「王位継承」と日本の「皇位継承」にはどのような差異があるのか。

この3点について学習をしていきます。

「天皇」及び「国王」の憲法上の地位

「天皇」も「国王」も憲法上にその地位についての規定が存在します。その条文を示したいと思います。

日本国憲法の条文における天皇の地位の規定

まずは我が国の天皇についての条文を比較してみましょう。

<日本国憲法第一条>

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

この条文を根拠に、我が国は「象徴天皇制」を採っており、天皇の地位は日本国民の総意に基づいて成立していると言っています。

大日本帝国憲法の条文における天皇の地位の規定

この点につき、憲法学の教科書において大日本帝国憲法の天皇の地位を「天皇主権」という言葉で説明されることがありますが、きちんと条文を読んで意味を理解しなければ間違った理解をする可能性が出てきますので注意が必要です。

<大日本帝国憲法>

第1条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス

特に、条文の文言の中にある「統治ス」について注目します。帝国憲法の原案では「統治(とうち)ス」という言葉は「治(しら)ス」という大和言葉でした。「治(しら)ス」とは、天皇がすべてを「お知り」になって、公平に治めることを意味する言葉です。これは「権力を私物化するのではなく臣民のために国を治めるべき存在であること」を示しています。すべての権力を保持し思うがままに「支配する」ことを意味しているわけではないのです。外国人には分かりにくいことと他の条文の文言との兼ね合いで用語を漢語にすることになり、「治(しら)ス」は「統治ス」という言葉になりました。

天皇は明治時代以前においても、様々な歴史的なできごとによって中断せざるを得ないこともありましたが、基本的には国民のためにお祈りになるご存在でした。そして、これまでの天皇のあり方を確認したのが帝国憲法第1条だという理解なのです。帝国憲法において、天皇は仮面ライダーに登場するショッカー大首領のようなご存在ではありません。

もう1つ、帝国憲法第4条を見てみましょう。

<大日本帝国憲法>

第4条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ

「元首(げんしゅ)」というのは、国家を対外的に代表し得る資格を有する国家機関を指します。そして、対内的にも一定の統治権行使の資格を認められるのが普通です。元首は、君主国であれば国王や天皇、共和国であれば大統領が国家元首になることが一般的です。大日本帝国において日本は立憲君主国ですから、天皇が元首だというのはあたりまえの原則が書いてあるにすぎません。

また、「統治権を総攬する」というのは、すべてをお知りになった上でまとめるという意味です。天皇が好き勝手に統治権を行使できることを意味する文言ではありません。さらに、「此ノ憲法ノ条規ニ依リ」と憲法に従うことまで明記されています。天皇は「天皇大権」を持っているので独りで何でもできてしまうように勘違いをする人も多いのですが、帝国憲法下においてもやはり天皇も憲法のもとにいらっしゃるということを理解しておいてください。

スペイン憲法の条文における国王の地位の規定

スペインの現在の国王はフェリペ6世です。ホアン・カルロス1世から譲位されました。くわしくは今回の講義の1番最後のテーマで「王位継承」を扱っていますので、そちらをご覧ください。

フェリペ6世国王ご夫妻

それでは、スペインの国王の地位についてのスペイン憲法の規定を見てみましょう。

<スペイン憲法第56条第1項>

El Rey es el Jefe del Estado, símbolo de su unidad y permanencia, arbitra y modera el funcionamiento regular de las instituciones, asume la más alta representación del Estado español en las relaciones internacionales, especialmente con las naciones de su comunidad histórica, y ejerce las funciones que le atribuyen expresamente la Constitución y las leyes.

国王は、国家元首であり、国の統合および永続の象徴であって、諸制度の正常な機能を総攬し、かつこれを調整する。国王は、国際的特にスペインと歴史的共通性を有する諸国との関係において、スペイン国の最高代表権を有し、憲法および法律が明示的に与える職務を行う。

スペイン憲法第56条第1項の条文を分解すると、国王の地位については以下のように説明できます。

  • 国家元首である。
  • 国の統合および永続の象徴である。
  • 諸制度の正常な機能を総攬し、かつこれを調整する。
  • 国際的特にスペインと歴史的共通性を有する諸国との関係において、スペイン国の最高代表権を有する。
  • 憲法および法律が明示的に与える職務を行う。

日本国憲法と比較すると、「地位」に関する規定の仕方あるいは文言がより具体的です。

そうは言ってもやはり国王に主権は存在しません。ではスペインにおいてはだれが主権者なのでしょうか。それを示す条文を示します。

<スペイン憲法第1条第2項>

La soberanía nacional reside en el pueblo español, del que emanan los poderes del Estado.

国の主権は、国家権力が発するスペイン国民に存する。

スペインも国民主権の国家なのだということがよく分かる条文です。

日本国憲法下において国家元首はだれなのか?という問題

スペイン憲法及び大日本帝国憲法には存在して日本国憲法にはない規定として、国家元首という文言の有無があげられます。日本国憲法の中には「国家元首」という文字は1文字も出てきません。したがって、憲法学者の中で「現行憲法下において国家元首はだれなのか?」という議論がされることがあります。この点について、天皇元首説、内閣総理大臣元首説、元首不存在説などがあります。学説上は内閣総理大臣説が有力説となっているようですが、結論はまとまっていないようです。

なお、内閣法制局第一部長の阪田雅裕氏が第151回国会参議院憲法調査会での答弁の中で、

「今日では、実質的な国家統治の大権を持たれなくても国家におけるいわゆるヘッドの地位にある者を元首と見るなどのそういう見解もあるわけでありまして、このような定義によりますならば、天皇は国の象徴であり、さらにごく一部ではございますが外交関係において国を代表する面を持っておられるわけでありますから、現行憲法のもとにおきましてもそういうような考え方をもとにして元首であるというふうに言っても差し支えない

第151回国会参議院憲法調査会会議録第9号

と述べています。内閣法制局の見解では、一応「元首と言って差し支えない」と述べています。

まとめ

日本国憲法 スペイン憲法
国家元首について 規定が存在しない。
(諸説あり)
「国王」
地位 日本国の「象徴」であり日本国民統合の「象徴」 (第1条) 国家元首であり、国の統合および永続の「象徴」 (第56条第1項)
国民主権の規定 「憲法前文」および第1条の「主権の存する日本国民」という文のくだりから、「国民」である。 国の主権は、国家権力が発するスペイン国民に存する。

天皇及び国王の権能について

日本国憲法下における天皇の権能

日本国憲法において天皇はどのような権能を有すると規定されているのでしょうか。1つずつ丁寧に条文を追ってみることにしましょう。まずは天皇が国事に関する行為をする際、天皇が単独で権限を行使することができるのでしょうか。

<日本国憲法第3条>

天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言承認を必要とすると書いてあります。助言と承認にどのような意味の違いがあるのかといった議論がされることがありますが、とりあえずは内閣のゴーサインが出ないと天皇は国事行為ができないと理解しておきましょう。

では国事行為とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。それは日本国憲法第6条と第7条に規定されています。

<日本国憲法第六条>

第1項 天皇は、内閣の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。

第2項 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。


<日本国憲法第七条>

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

  1. 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
  2. 国会を召集すること。
  3. 衆議院を解散すること。
  4. 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
  5. 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
  6. 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
  7. 栄典を授与すること。
  8. 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
  9. 外国の大使及び公使を接受すること。
  10. 儀式を行ふこと。

なお、天皇は上記の国事行為以外にも、天皇の行為のうち国事行為には該当しないが、純粋な私的行為ともいえず、公的な意味がある行為であるいわゆる「公的行為」も行います。具体的には、国会の開会式に臨席すること(「召集」は国事行為(7条2号)だが「臨席」は国事行為には書いていないが、実際には臨席され「おことば」を述べられる)や国内行幸などがあげられます。

このほかにも多くの宮中祭祀を行う(宮内庁ウェブサイトの「ご公務」参照)など、毎日をお忙しくされているのが天皇陛下です。文庫本でも[山本雅人「天皇陛下の全仕事」(講談社現代新書)2009年]に分かりやすく解説されていますので、関心のある方はぜひ本を手に取って読んでみてください。

大日本帝国憲法下における天皇の権能

次に大日本帝国憲法における天皇の権能について見ていきましょう。ここは全てを列挙するというよりも、条文を読む際に間違えやすい部分をあげたいと思います。

<大日本帝国憲法>

第5条 天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ

第11条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス

第55条第1項 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
第55条第2項 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス

帝国憲法第5条について。「帝国議会は天皇を助ける機関にすぎない」とこれまた誤解している人たちが多いのですが、これは「天皇が立法権を行うには帝国議会の賛成・協力(協賛)が必要だ」ということで、「帝国議会の協賛がなければ天皇は立法権を行使できない」ことを意味します。現行の日本国憲法は「議会で可決→天皇がハンコを押す(御名御璽)→法律の公布」という手続で進んでいきますから、帝国憲法とほぼ同じです(異なるのは、法律の効力が発生するのが、帝国憲法では天皇陛下の裁可の時点であるのに対し、日本国憲法では国会での議決が成立した時点ですが手続の問題として天皇陛下が絡んでくる)。天皇の権能は極めて抑制的です。

帝国憲法第55条について。「輔弼(ほひつ)」とは補助して助言することを意味します。これは日本国憲法にも天皇の国事行為には「助言」と「承認」が必要だということが書いてありますが、意味するところは同じです。第2項の中にある「勅令(天皇の名で命令を発布する)」にすら国務大臣の副署(サイン)が必要だと書いてあるわけですから、これまた天皇の権能は極めて抑制的です。

スペインにおける国王の権能

スペインの「国王」は、スペイン憲法第62条および第63条に掲げられた権能を有しています。しかし、「国王」がこれらの行為を単独で行うことはできず、内閣総理大臣または主任の国務大臣の「副署 (refrendo)」が必要で (スペイン憲法第64条第1項)、国王が為した行為は、承認の署名を行ったものが責任を負います (スペイン憲法第64条第2項)。逆から言えば、「国王」ご自身は不可侵 (inviolable)にして無答責 (no está sujeta a responsabilidad)であると言えます (スペイン憲法第56条第3項)。条文で整理してみましょう。

<スペイン憲法第64条>

  1. Los actos del Rey serán refrendados por el Presidente del Gobierno y, en su caso, por los Ministros competentes. La propuesta y el nombramiento del Presidente del Gobierno, y la disolución prevista en el Artículo 99, serán refrendados por el Presidente del Congreso.
  2. De los actos del Rey serán responsables las personas que los refrenden.
  1. 国王の行為は、内閣総理大臣及び各々の場合において、主任の国務大臣により副署される。内閣総理大臣の推挙及び任命並びに憲法第99条に定められた解散については、衆議院議長がこれに副署するものとする。
  2. 国王の行為については、これに副署した者が自ら責任を負うものとする。

<スペイン憲法第56条第3項>

La persona del Rey es inviolable y no está sujeta a responsabilidad. Sus actos estarán siempre refrendados en la forma establecida en el Artículo 64, careciendo de validez sin dicho refrendo, salvo lo dispuesto en el Artículo 65, 2.

国王の人格は、侵すべからずものにして、かつ、国王は、責任を問われない。その行為は、第64条に定められた形式において、常に副署されるものとし、この副署を欠くときは、第65条第2項の規定を除き、その行為は、効力を有しない。

それでは、スペインの国王には憲法上どのような権能があるのでしょうか。以下、項目を列挙します。

まずは国内的権能です。(スペイン憲法第62条)

  1. 法律の裁可・公布(a号)
  2. 国会の召集・解散及び選挙の布告(b号)
  3. 国民投票の布告(c号)
  4. 憲法に定められた条件において、内閣総理大臣を推挙し、任命し及びその職務を終了させること(d号)
  5. 内閣総理大臣の具申に基づく国務大臣の任免(e号)
  6. 閣議により採択された政令の公布、文官及び武官の任命、栄典の授与(f号)
  7. 閣議の主宰(国事につき報告を受け、そのために国王が適当とみなしたときに、内閣総理大臣の要請があった場合)(g号)
  8. 軍隊の統帥(h号)
  9. 恩赦の権利の行使(但し、大赦を与えることはできない)(i号)
  10. 王立アカデミーの最高保護者(j号)

次に対外的権能です。(スペイン憲法第63条)

  1. 外交使節を信任し、外国の使節に対しては信任状を受理する権能(1項)
  2. 国際条約の締結に際し、国の同意を表明する権能(2項)
  3. 国会の承認後の宣戦布告及び講和条約の締結の権能(3項)

ここで、日本国憲法における天皇とスペイン憲法における国王の国事行為を比較表にしてまとめてみます。

項目 日本 スペイン
内閣関連事項 内閣総理大臣の任命 国会の指名に基づく (憲法第6条第1項) 憲法に定められた条件において、内閣総理大臣を推挙し、任命し、およびその職務を終了させること。 (憲法第62条第d号)
内閣閣僚の任命 内閣総理大臣が任命する。
(天皇の国事行為ではない。)
内閣総理大臣の具申に基づいて、閣僚を任命し、及びこれを罷免すること。 (憲法第62条第e号)
緊急時における閣議の主宰 国事につき報告を受け、そのために、国王が適当とみなした時は、内閣総理大臣の要請により、閣議を主宰すること。 (憲法第62条第g号)
司法関係 最高裁判所長官の任命 内閣の指名基づく (憲法第6条第2項) 法律が定める形式において、司法全体会議の推挙基づく (憲法第123条第1項)
立法機関関係 国会の召集 国会を召集すること (憲法第7条第2号) 国会を召集し、及びこれを解散すること、並びに憲法に定められた条件のもとに選挙を布告すること。 (憲法第62条第b号)
衆議院を解散 衆議院を解散すること (憲法第7条第3号)
国会議員の選挙の施行を公示する 国会議員の総選挙の施行を公示する(憲法第7条第4号)
国民投票の布告 (憲法第62条第c号)
憲法改正、法律、政令及び条約の公布 (憲法第7条第1号) 法律を裁可し、これを公布すること。 (憲法第62条第a号)
閣議において採択された政令を公布すること。(憲法第62条第f号)
官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状の認証 (憲法第7条第5号) 文官及び武官を任命すること (憲法第62条第f号)
スペインの大使その他の外交代表の信任 (憲法第63条第1項)
大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の認証 (憲法第7条第6号) 法律に従い、恩赦の権利を行使すること。但し、大赦を与えることはできない。 (憲法第62条第i号)
栄典の授与 (憲法第7条第7号) 法律に従い栄誉及び称号を授与すること。 (憲法第62条第f号)
批准書及び法律の定めるその他の外交文書の認証 (憲法第7条第8号) 国際条約の締結に際し、国の同意を表明する権能 (憲法第63条第3項)
国の大使及び公使の接受 (憲法第7条第9号) 外国大使及び行使の接受 (憲法第63条第3項)
儀式を行ふ (憲法第7条第10号) (憲法上には明示の規定ない)
王立アカデミーの最高保護者 (憲法第62条第j号)
軍隊関連 軍隊の統帥権 (憲法第62条第h号)
宣戦布告及び講和条約締結の権能 (憲法第63条第3項)

 

憲法に定められた国事行為を比較すると、スペインの国王の方が日本の天皇のそれと比較すると広範であると言えると思います。

なお、スペインにおける「憲法に定められた条件において、内閣総理大臣を推挙し、任命し及びその職務を終了させること」(スペイン憲法第62条d号)に関しては、「第8回の議院内閣制」の講義でお話を展開したいと思います

前述したとおり、これらの行為をする場合には天皇または国王は単独で権限を行使することはできません。ほとんど同じだということを比較表で確認してみましょう。

日本国憲法の天皇 スペイン憲法の国王
国事行為のあらまし 天皇・国王 「天皇の国事に関するすべての行為には内閣がその責任を負ふ」ため、不可侵にして無答責。(第3条) 不可侵にして無答責 (第56条第3項)
天皇・国王の国事行為は単独行為で行えるか? 内閣の助言と承認が必要 (第3条) 内閣総理大臣または主任の国務大臣の「副署」が必要 (64条第1項)
国事行為の
責任者
「内閣が、その責任を負ふ。」 承認の署名を行ったもの
(内閣総理大臣及び主任国務大臣)
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スペインにおける王位継承と日本における皇位継承

この回の最後のテーマとして、スペインにおける王位継承と日本における皇位継承についての比較をしてみましょう。

両国ともに、いわゆる「譲位」に関するニュースが流れたので、読者の皆さまにおかれても関心の高いテーマだと思いますが、ここで扱います。

日本における皇位継承について

日本国憲法及び皇室典範に関する憲法上の規定

日本における皇位継承問題についてはどのような規定が存在するのでしょうか。まず、日本国憲法第2条において「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」と定められているように、「皇室典範 (昭和22年1月16日法律第3号)」において次のような規定を設けています。

<皇室典範第1条>

皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。


<皇室典範第2条第1項>

皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。

  1. 皇長子
  2. 皇長孫
  3. その他の皇長子の子孫
  4. 皇次子及びその子孫
  5. その他の皇子孫
  6. 皇兄弟及びその子孫
  7. 皇伯叔父及びその子孫

日本の場合、「男系」「男子」による皇位継承しか認められていません。これは大日本帝国憲法下において「男系」「男子」が明文化されました(旧皇室典範第1条「大日本国皇位ハ祖宗ノ皇統ニシテ男系ノ男子之ヲ継承ス」)。

現在の皇位継承順位は次のとおりです。

  1. 皇太子徳仁(なるひと)親王…第1皇男子
  2. 秋篠宮(あきしののみや)文仁親王 …第2皇男子
  3. 悠仁(ひさひと)親王…皇孫 / 秋篠宮文仁親王第1男子
  4. 常陸宮(ひたちのみや)正仁親王 …皇弟 / 昭和天皇第2皇男子

いわゆる女性天皇・女系天皇について

かつては「女帝(いわゆる女性天皇)」がいらっしゃいましたが、125代の天皇がこれまでいらっしゃいましたが、そのうちの10代8方しかいらっしゃいません。

歴代の女性天皇一覧表

江戸時代までは「女帝」がいらっしゃったのですが、いずれも「男系」であり、「女系」の「女帝」は歴史上存在しません(平成17年3月30日第3回皇室典範に関する有識者会議 – 資料3「歴代の女性天皇について」)。「男系」というのは、簡単に言えば「父君をひたすらにさかのぼっていける状態」を指します。現在の天皇陛下からずっとさかのぼっていくと、初代天皇の神武天皇に行き着き(平成17年3月30日に開催された第3回皇室典範に関する有識者会議の「天皇系図」参照)、さらに次からは神話の世界になりますが、鵜草葦不合命(うがやふきあえずのみこと)、火照命(ほでりのみこと)、邇邇芸命(ににぎのみこと)、天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)へと遡り、そしてその母である天照大御神(あまてらすおおみかみ)にたどり着きます。神話の世界にまでつながる日本の皇室によって、公的には2670年以上も1つの王朝を続けてきました。

なぜこれまで日本の皇室が「男系」にこだわってきたのかは様々な説があるようですが、通説的なものは存在しないようです。私見では、皇族でない人が天皇を政治利用して国の象徴的地位を乗っ取ることを防止するために自然と蓄積された知恵だと思います。

ところが、先の大戦後のGHQの占領政策によって、男系を守るために設置されていた「宮家」の臣籍降下がなされたために皇位継承資格を持つ皇族が減少しました。そこで、これを打開するために「女系」天皇や「女性」天皇の検討を主張する論者が増えているのが実情です。これに対しては、「女系」天皇についてはこれまでの2000年以上も守られてきたとされる皇室の先例を壊すことになり、現在の王朝の終了を意味することになるので望ましい案とは言えないと批判を加える論者もいます。また、「女性」天皇が即位された場合は皇室先例では例外なく独身かまたは未亡人であり、それを女性皇族に求めることにもなりかねません。皇室の先例を変更するには十分な検討が必要です。先例を変更する前に旧宮家を復活させて「男系」承継を行う方法をとった方が皇室先例に則れば妥当な結論だとボクは考えます。

現行憲法下における皇位継承の実際

平成28年(西暦2016年)7月13日に、NHKが「NHKニュース7」(NHK総合テレビ)の冒頭において、「天皇が数年内の生前退位の意向を示していることが宮内庁関係者への取材で分かった」というスクープニュースが流れ、日本中が大騒ぎになりました。

平成28年(西暦2016年)8月8日午後3時(日本時間)に天皇陛下が「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」という玉音放送を発せられました(実際の「おことば」はこちら)。天皇陛下の御心を忖度(そんたく)しながら皇室の先例を注意深く考慮し、様々な議論のすえに「天皇の退位等に関する皇室典範特例法(本稿では以下「皇室典範特例法」と言います)」(成立:平成29年(西暦2017年)6月9日、公布:平成29年(西暦2017年)6月16日)が可決されました。

これについて順を追って説明していきましょう。まずは皇室典範第4条です。

<皇室典範第4条>

天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。

天皇が崩御しないと皇位継承はされないことを意味する規定です。昭和天皇の御世にも高齢化に伴う生前の譲位が国会で検討されましたが、昭和59年(西暦1984年)4月17日(火)に開催された第101回国会 参議院内閣委員会第6号において、当時80歳をすぎた昭和天皇の退位を巡って国会で質疑が行われています。答弁に立った当時の山本悟宮内庁次長は、皇室典範に退位の規定がないことについて、

  1. 退位を認めると上皇や法皇などの存在が弊害を生む恐れがある
  2. 天皇の自由意思に基づかない退位の強制があり得る
  3. 天皇が恣意的に退位できるようになる

といった理由をあげて、崩御前のご譲位については否定的な見解が示されていました。ところが、天皇陛下の玉音がメディアから流された後に様々な専門家が様々な意見を出しました。もし、天皇が崩御する前に譲位なされるとしたら、光格(こうかく)天皇が文化14年3月22日(グレゴリオ暦: 1817年5月7日)に仁孝(にんこう)天皇にご譲位されて以来の話です。

話は脱線しますが、光格天皇のご譲位は今回の天皇陛下のご譲位の問題を考えるのによいヒントになる事例です。平成29年(西暦2017年)1月30日の産経新聞が以下のような内容を報じた記事を出しました。

陛下 光格天皇の事例ご研究 宮内庁に調査依頼 6年半前

天皇陛下が約6年半前に譲位の意向を示した当初、最後に譲位した光格天皇の事例を調べるよう宮内庁側に伝えられていたことが23日、分かった。陛下が譲位の具体例に言及されていたことが判明するのは初めて。光格天皇は譲位後に権力から遠ざかっており、陛下が持たれている譲位のイメージに合致していた可能性がある。

光格天皇は江戸後期の1779年、閑院宮家から後桃園天皇の養子になり、第119代天皇に即位。1817年に皇太子だった仁孝天皇に譲位し、太上天皇(上皇)となった。在位中は朝廷の儀式を再興させるなど近代天皇制の礎を築いたとされる。陛下は光格天皇の直系にあたられる。

陛下は遅くとも平成22年7月には、相談役の宮内庁参与らを集めた会合、いわゆる参与会議の場で譲位の意向を示したが、関係者によると、その前後に、宮内庁幹部らに光格天皇の譲位の事例を調べるよう依頼されたという。

関係者の一人は「譲位後の光格天皇は、中世の後鳥羽上皇らと異なり、権力をふるっていない。譲位の直近の事例で資料が残っていることもあるが、陛下の思い描く譲位後のイメージと重なる部分もあったのではないか」と指摘する。

陛下の譲位に関する政府の有識者会議で、宮内庁側は陛下が譲位する場合、象徴としての行為を基本的に全て新天皇に譲られるとの見解を示し、「象徴が二元化することはあり得ない」と説明している。

専門家の間で懸念される譲位後の天皇と新天皇が併存する権威の二元化を否定した形で、こうした考えには陛下の意向が反映されているとみられる。

別の関係者は「陛下は天皇の歴史を誰よりもよくご存じだ。歴史から学び、譲位の意向を徐々に固められたのだろう」と話した。

平成29年1月30日の産経新聞

明治時代以降の皇室先例が変更される局面なので、天皇陛下も慎重にご検討をされていたのだという記事をご紹介しました。

次に皇室典範特例法第1条と第2条を見ます。

<皇室典範特別法第1条>(趣旨)

この法律は、天皇陛下が、昭和六十四年一月七日の御即位以来二十八年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、八十三歳と御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、五十七歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精勤されておられることという現下の状況に鑑み、皇室典範(昭和二十二年法律第三号)第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項を定めるものとする。

<皇室典範特例法第2条>(天皇の退位及び皇嗣の即位)

天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。

では、いつ譲位がなされるのかというと、こちらは皇室典範特例法の附則第1条に規定があります。

<皇室典範特例法附則第1条>(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第一条並びに次項、次条、附則第八条及び附則第九条の規定は公布の日から、附則第十条及び第十一条の規定はこの法律の施行の日の翌日から施行する。

このように皇室典範特例法で今回のご譲位の問題には手を打ったわけですが、そもそも日本国憲法第2条において「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところによりこれを継承する。」とあるのに、なぜ特例法で手を打つことができたのでしょうか。特例法は特例法であって皇室典範ではないので、憲法第2条に違反するのではないかと疑問を呈する識者もいます。この点については、立法的にも解決済みでかつ実質的にも問題ないという主張が一般的です。まず立法的には皇室典範の附則に次のような文言を付けることで解決しています。

<皇室典範特例法附則第3条>

(皇室典範の一部改正)
皇室典範の一部を次のように改正する。
附則に次の一項を加える。
この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第六十三号)は、この法律と一体を成すものである。

皇室典範の附則にこの文言を加えることで特例法と皇室典範をイコールにしてしまう立法措置を取りました。このようにして形式的な解決を図りました。

この措置は、天皇陛下の崩御前のご譲位は原則として否定すべきだ(理由は山本悟宮内庁次長の答弁のとおりでよいと思います)という立場を保持しつつ、例外的に天皇陛下の御心に沿う形で今回限りの例外的な措置であることを示しています。

この措置について反対意見(「特別法ではなく皇室典範を改正すべき」「崩御前の譲位そのものに反対」など)もありますし、今後、恒久的な制度とすべきか否かは議論がなされるものと思います。

スペインにおける王位継承について

スペイン憲法における王位継承に関する憲法上の規定

スペインにおける王位継承についての歴史を簡単に見ていきたいと思います。

先の講義において、スペインはハプスブルク家からブルボン家へと王朝が変わりました(西暦1700年)。ブルボン王朝が成立した頃、フランク族サリー人の法で王位継承の問題に適用「サリカ法典(Lex Salica)」により、当初は女子の王位継承は認められていませんでした。

ところが、自由主義の色彩の強い「カディス憲法」において女子の王位継承権を認めます。この点について、カディス憲法第174条を見て確認してみましょう。なお、カディス憲法のスペイン語はwikisourceから引用したものです。和訳は、[池田実「(邦訳)スペイン1812憲法(カディス憲法)」『山梨大学教育人間科学部紀要』第1巻第1号・1999年]を参照しています。

<カディス憲法>

Art. 174. El reino de las Españas es indivisible, y sólo se sucederá en el trono perpetuamente desde la promulgación de la Constitución por el orden regular de primogenitura y representación entre los descendientes legítimos, varones y hembras, de las líneas que se expresarán.

第174条 スペイン王国は、不可分であり、王位は、憲法公布の時点から永久に、以下に示す血統の嫡出の男女の子孫の中から、長子及び代襲相続の順序に従ってのみ、継承されるものとする。

サリカ法典は、1830年にフェルナンド7世の時代に廃止されました。

その後の憲法においても、1834年憲法第51条、1845年憲法第50条、1869年憲法第77条、1876年憲法第60条にも女子の継承権が認められる文言が存在します。

さて、現行憲法である1978年憲法にはどのような規定がされているでしょうか。第57条第1項に次のような規定が設けられています。

<スペイン憲法第57条第1項>

La Corona de España es hereditaria en los sucesores de S. M. Don Juan Carlos I de Borbón, legítimo heredero de la dinastía histórica. La sucesión en el trono seguirá el orden regular de primogenitura y representación, siendo preferida siempre la línea anterior a las posteriores; en la misma línea, el grado más próximo al más remoto; en el mismo grado, el varón a la mujer, y en el mismo sexo, la persona de más edad a la de menos.

スペイン王位は、歴史的王朝の正当な継承者たるブルボン家ホアン・カルロス1世陛下の相続人において、これを世襲するものとする。王位継承は、長子相続および代襲相続の正規の順序にしたがうものとする。長系は、常に他に優先し、また同系内においては、最近親等が他に優先し、同等内においては、男が女に、また同性の場合には、年長者が年少者に優先する。

つまり、女子にも王位継承権が認められていることが分かります。

現行憲法下におけるスペイン王位継承の実際

フランコ総統が西暦1975年に死去し、ホアン・カルロス1世がスペイン国王に即位しました。ホアン・カルロス1世自らが平和的に独裁国家から民主国家への移行に貢献されたことがきっかけで、スペイン国民からは高い支持を得て、さらに国際的にも1980年にはノーベル平和賞候補、1982年にはシャルルマーニュ賞を受賞されています。

ところが、ギリシアから端を発した西暦2012年の欧州全体の財政危機にスペインも巻き込まれ、特に若年層の高い失業率が社会問題化していた時に、ホアン・カルロス1世国王が非公式で訪れていたボツワナでアフリカゾウのハンティング中に腰の骨を折る大怪我を負った事件がありました。この時、

  • 国王といえど贅沢が許されるような状況になかったのにゾウのハンティングをやっているのはけしからん!
  • 国王自身が世界自然保護基金の名誉総裁の職にあったにもかかわらず、レッドリストに掲載されている動物を対象にスポーツハンティングを行ったこと(但しスペインの法に照らし違法ではない)。結果的に名誉総裁の職を辞任した

といった理由で、スペイン国民からは猛烈なバッシングを受けました。

また、クリスティーナ王女の夫であるイニャキ・ウルダンガリンが会長を務めていた非営利団体を通じて地元政府から公的資金を不正に取得したという疑義が生じ、この2つの事件をきっかけにスペイン王室に対する不信感は高まりました。

2013年4月8日に、AFP通信がスペイン国内の有力紙の1つであるEl país紙が実施した世論調査の結果を次のように報じています。

【4月8日 AFP】国王フアン・カルロス1世(King Juan Carlos)のゾウ狩りや娘のクリスティーナ王女(Princess Cristina)の夫の公金横領疑惑など王室スキャンダルが続くスペインで7日、国民の過半数が国王を支持しないとする世論調査の結果が発表された。

中道左派系のエル・パイス(El Pais)紙が行った調査で、国王の職務遂行ぶりについて回答者の53%が「支持しない」と答えた。「支持する」としたのは42%だった。

調査は3月に実施されたものだが、昨年12月の世論調査では「支持する」が「支持しない」を21ポイント上回っていたのに対し、今回は11ポイント差で逆転し、支持率が低下していることが浮き彫りとなった。

 

(途中省略)

今回の調査で、フェリペ皇太子については「支持する」が61%、「支持しない」が33%だった。(c)AFP

こうした不祥事に加え、2012年には高齢に伴う健康問題も抱え、「譲位」の機運が高まってきました。

西暦2014年6月2日の午前中、突然ラホイ首相からスペイン国王退位のアナウンスがなされました。下の映像はスペイン国営放送TVEのものです。

 

そして、その日の午後1時頃、ホアン・カルロス1世国王は、主要テレビ局で放送されたビデオ映像を通じて、退位を発表しました。下の映像は王室の公式Youtubeチャンネルのものです。

 

この時点で、実はスペイン国王が自らの意思で譲位できることを具体化した法律は存在しませんでした。スペイン憲法第57条第5項において次のような内容が規定されるのみで、具体的な規定は存在しません。

<スペイン憲法第57条第5項>

Las abdicaciones y renuncias y cualquier duda de hecho o de derecho que ocurra en el orden de sucesión a la Corona se resolverán por una ley orgánica.

退位、譲位及び王位継承の順序における事実上または法的な疑義は、組織法により、これを解決するものとする。

そこで、ラホイ首相は閣議を開き、法案を提出することを決定しました。

一方、そもそも「王制」そのものに懐疑的であったりな左派勢力が、王制の是非を国民投票によって決すべきではないかと抗議運動が相次いで起こりましたが、結局国民投票は行われないまま国会審議に入りました。

国会での投票は、議長の名指しに対して、直立して口頭で「Sí(賛成)」か「No(反対)」を返答する形を取る方式が採用されました。スペインの国会ではしばしば見られる投票方式です。EUROPRESSの動画でその様子がよく分かります。

 

上の様子は下院の投票時のものですが、結局、下院及び上院の議決により、「ホアン・カルロス1世の譲位を実行するための組織法 (Ley Orgánica 3/2014, de 18 de junio, por la que se hace efectiva la abdicación de Su Majestad el Rey Don Juan Carlos I de Borbón.)」という「特別法」により、ホアン・カルロス1世のご譲位は実現しました。

条文の内容はごく簡単なものです。条文の内容をご紹介しましょう。

<ホアン・カルロス1世の譲位を実現するための組織法第1条>(ブルボン家ホアン・カルロス1世国王陛下の退位)

  1. Su Majestad el Rey Don Juan Carlos I de Borbón abdica la Corona de España.
  2. La abdicación será efectiva en el momento de entrada en vigor de la presente ley orgánica.
  1. ブルボン家ホアン・カルロス1世国王陛下は、スペイン国王を退位する。
  2. その退位はこの組織法が発効するのと同時に効力を有するものとする。

 


<ホアン・カルロス1世の譲位を実現するための組織法最終規定>(組織法の発効)

La presente ley orgánica entrará en vigor en el momento de su publicación en el «Boletín Oficial del Estado».

Por tanto,

Mando a todos los españoles, particulares y autoridades, que guarden y hagan guardar esta ley orgánica.

この組織法は、国家官報において公示された時点で効力を有する。

したがって、

全ての国民、個人、当局に対し、この組織法を保存し、保存されるようにすることを求める。

ホアン・カルロス1世とラホイ首相がこの組織法に署名する式典(2014年6月18日実施)の様子が、王室公式Youtubeで公開されています。


また、下院議事堂において開かれた即位式の様子も王室公式Youtubeで公開されています。


上の動画の即位式は、カッコイイから行っているわけではなく、憲法典に即して行われているものです。その条文をご紹介しましょう。

<スペイン憲法第61条第1項>

El Rey, al ser proclamado ante las Cortes Generales, prestará juramento de desempeñar fielmente sus funciones, guardar y hacer guardar la Constitución y las leyes y respetar los derechos de los ciudadanos y de las Comunidades Autónomas.

国王は、国会における即位宣布にあたり、その職務を忠実に行うこと、憲法および法律を遵守しかつ遵守させること並びに市民および自治州の権利を尊重することを宣誓すべきものとする。

こうして現行憲法下において初めての譲位ができました。

それではフェリペ6世が即位された後、王位継承順位はどのようになるのかを系図を用いて示したいと思います。

スペイン王位継承順位を示した家系図

なお、もしフェリペ6世とレティシア王妃との間に男子が生まれれば、その男子が王位継承順位が1番目になります。先に述べたとおりで、王位継承は男子が女子に優先するからです。

まとめ

日本 スペイン
基本的な順序 皇室典範第2条第1項に記載された順序 長子相続および代襲相続の正規の順序にしたがう
女性による継承権 なし
(皇室典範第1条)
あり
(スペイン憲法第57条第1項)
「女系」の可否 女系「天皇」は不可。 女系「国王」即位は可能
継承者が不在の場合 皇室典範第2条第1項の皇族がいない場合は、最近親の系統の皇族
(皇室典範第2条第2項)
スペインの利益に最も合致する形式において、国会が皇位継承を定める
(スペイン憲法第57条第3項)
継承権者の婚姻について 立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する
(皇室典範第10条)
婚姻の自由を有するが、国王及び国会の「明示的禁止」に反して婚姻が行われた際には、本人及びその子孫は王位継承から除外される。
(スペイン憲法第57条第4項)
近年の継承権問題 今上陛下の崩御前に譲位を表明 ホアン・カルロス1世がフェリペ6世に譲位した

 

おわりに

多くの資料を引用したため、かなりボリュームのある内容になりました。

外国法を勉強するのと同時に日本法の理解を深めると、両国の法制度を学ぶことができます。上の内容をスタートラインにして、さらなる議論を深めていただければと思う次第です。

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スペインの王制に関しては、[野口健格「スペインにおける王制の憲法的課題と現状」『中央学院大学 法学論叢』第29巻第1号]などに論考があり、興味深い分析をされています。

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