第8回 スペインにも日本にもある議院内閣制にはどのような違いがあるのでしょうか。

更新日: 平成29年(西暦2017年)9月5日

はじめに

「議院内閣制」とは、政府(内閣)が国会(または下院)の信任によって存立する制度を指します。日本もスペインもともに「議院内閣制」が採用されています。

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ところが、日本とスペインとではその様相が大きく異なります。そこで、まず日本における議院内閣制の内容を把握した後に、スペインの議院内閣制を見ていきたいと思います。特に、内閣総理大臣の指名及び不信任決議が出る場面に絞って解説を加えていきたいと思います。

日本とスペインの議院内閣制を比較する際に見るべきポイントを先にご紹介しておきましょう。

  1. 内閣総理大臣の指名の段階において、衆議院(下院)の優越にかかる規定は存在するか。
  2. 内閣総理大臣を決定するプロセスの中で、天皇(国王)はどのように関わるのか。
  3. 内閣不信任決議が出されたときの国会の対応について

これまで学習してきた「国王(天皇)」及び「国会」の総まとめ的な内容になると思います。

内閣総理大臣の指名の手続き

日本の場合

内閣総理大臣が誕生するまでのプロセス

早速条文をあげてみましょう。

<日本国憲法第六十七条>

  1. 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
  2. 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

スペインの比較法との関係で2つのポイントを押さえておきましょう。

  1. 「内閣総理大臣は国会の議決によって指名される」という点です。首班指名は衆議院と参議院の両院でそれぞれ行われるという点に注意してください。
  2. 衆議院と参議院の議決で異なった場合には「衆議院の優越の原則」が働く(衆議院の議決が国会の議決となる)点を理解しておいてください。

内閣総理大臣の選出プロセスに天皇はどのように関わっているか?

これも条文で確認しましょう。

<日本国憲法第六条>
第1項 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。

天皇は内閣総理大臣を任命します。

スペインの場合

内閣総理大臣が選出されるまでのプロセス

それではスペインにおいて内閣総理大臣はどのように決定されるのでしょうか。

  1. 国王が下院の各会派のトップを宮殿に呼ぶ。そこで、各会派の代表者として協議を行なう。 (スペイン憲法第99条第1項)
  2. 国王が、下院議長を通して、内閣総理大臣候補者を指名する (スペイン憲法第99条第1項)。通常は、下院の中での最大会派の代表クラスの人物が候補になる。
  3. 指名を受けた候補者は、下院に対して、自己が組織しようとする内閣の施政方針演説を行ない、下院の絶対的過半数の信任(出席議員の過半数ではなく全議員の過半数)を求める。 (スペイン憲法第99条第2項)
  4. 下院から信任を得た候補者は、国王がその者を内閣総理大臣に任命する。しかし、信任が得られなかった場合は、再考期間として48時間の後に、再び評決が行なわれる。この時は下院の出席議員の過半数の信任で足りる。それでも信任の議決がない場合は、再びこの手続をもって、第2の候補者が指名される。 (スペイン憲法第99条第3項・4項)
  5. 内閣総理大臣の最初の表決から2ヶ月の期間が経過してもなお、下院の信任を得られなかった場合は、国王は上下院を解散し、かつ下院議長の副署 (Refrendo)を以って、新たな選挙を実施する。 (スペイン憲法第99条第5項)

という手順で内閣総理大臣が選出されます。

ここで注目していただきたいのは、内閣総理大臣を決定するプロセスに上院が登場していない点です。上院は地方の利益を反映した議院であるため、内閣総理大臣指名権がないと解されるのが一般的なようです。したがって、「国民の代表」としての集合体である「下院」に対してのみ内閣は責任を負う、といった論理が存在するわけです。この点、日本国憲法における内閣総理大臣の選出プロセスとは大きく異なりますね。先ほど強調した部分をよく比較してみてください。

しかし、ここで注意しなければならないのは、内閣を監督する権限を握っているのは、下院のみではなく上院も含まれている、つまり「国会 (Cortes Generales)」であるという点です。

<スペイン憲法第66条第2項>

Las Cortes Generales ejercen la potestad legislativa del Estado, aprueban sus Presupuestos, controlan la acción del Gobierno y tienen las demás competencias que les atribuya la Constitución.

国会は、国の立法権を行使し、予算を承認し、内閣の行為を監督し、および憲法が付与するその他の権能を有する。


この点は前回の講義で国会の権能としてご紹介したところでした。

内閣総理大臣の選出プロセスに国王はどのように関わっているか?

前節では内閣は下院に対して責任を負うことを学習しましたが、次に国王との関わりという点に意識を向けて考えてみましょう。

ところで、スペインの国王の講義回でスペイン国王の国事行為について概観しました。スペイン憲法第62条第d号にて、「憲法に定められた条件において、内閣総理大臣を推挙し、任命し、およびその職務を終了させること。」という規定が存在しますが、「国王」のこの行為は、「議会君主制 (Monarquía Parlamentaria)」の理念を顕著に反映した規定であると言われています。つまり、国民の代表者によって構成される国会 (スペインの場合は、国会の性質上「下院」である)において、内閣総理大臣が決定され、国王によって任命を受けるからです。

では、先ほど概観したスペイン憲法第99条について、今度は国王について着目しながらもう一度確認してみましょう。

  1. 国王が下院の各会派のトップを宮殿に呼ぶ。そこで、各会派の代表者として協議を行なう。 (スペイン憲法第99条第1項)
  2. 国王が、下院議長を通して、内閣総理大臣候補者を指名する (スペイン憲法第99条第1項)。通常は、下院の中での最大会派の代表クラスの人物が候補になる。
  3. 指名を受けた候補者は、下院に対して、自己が組織しようとする内閣の施政方針演説を行ない、下院の絶対的過半数の信任(つまり、出席議員の過半数ではなく、全議員の過半数)を求める。 (スペイン憲法第99条第2項)
  4. 下院から信任を得た候補者は、国王がその者を内閣総理大臣に任命する。しかし、信任が得られなかった場合は、再考期間として48時間の後に、再び評決が行なわれる。この時は下院の出席議員の過半数の信任で足りる。それでも信任の議決がない場合は、再びこの手続をもって、第2の候補者が指名される。 (スペイン憲法第99条第3項・4項)
  5. 内閣総理大臣の最初の表決から2ヶ月の期間が経過してもなお、下院の信任を得られなかった場合は、国王は上下院を解散し、かつ下院議長の副署 (Refrendo)を以って、新たな選挙を実施する。 (スペイン憲法第99条第5項)

日本と比較すると、内閣総理大臣の選出プロセスにおいて国王が大きく関わっていることが確認できると思います。

日本 スペイン
国会と内閣の関係 議院内閣制 議院内閣制
内閣総理大臣の指名・任命 指名 国会 国王
(下院内の最大会派の代表を指名するのが慣例)
承認 下院
(西憲法第99条第2項)
任命 天皇 国王
国会に対する連帯責任 行政権の行使について、国会対し連帯して責任を負う (日憲法第66条第3項) 政治的職務執行につき、下院対して連帯して責任を負う
(西憲法第108条)

 

23F事件 - 議会君主制の危機を乗り越えて…

「1978年憲法 (Constitución de 1978)」が1978年12月29日に施行された後、「トランシシオンの動き (スペインの民主化の動き)」は、本来君主制に反対しているはずのスペイン共産党も含めて圧倒的な支持のもとで確実に進行していました。

ところが、その動きとは正反対の動きが軍事クーデターという形で現れます。それが「23F事件」です。23Fが意味するところは、23は23日、Fはfebrero (英語で言うFebruary「2月」)を意味する。つまり、2月23日の事件ということです(日本史風に言えば「2・23事件」といったところだろうか)。

「23F事件」は、スペインの首都であるマドリードとスペイン第3の都市であるバレンシアでほぼ同時に起こりました。

都市名 首謀者 概要
マドリード テヘロ中佐
アルマダ将軍
内閣総理大臣であったスアレスが辞意を表明し、下院議事堂内で次期内閣総理大臣候補であったカルボ=ソテーロ氏の信任投票を行っていたところを、治安警備隊200名が国会を取り囲んだ。
バレンシア ミランス将軍 戦車隊を町中に繰り出して、戒厳令も発令された。

 

先に紹介した内閣総理大臣を選出プロセスで下院において承認決議を行っている最中で起こったこのクーデターは、議会君主制を敷いていたスペイン民主化の危機でした。このクーデターは軍事政権を確立して治安を取り戻すことが目標でした。

彼らが1981年2月23日午後6時20分に国会(下院)を占拠したのは、このプロセスにおいて全ての国会議員と内閣閣僚が国会(下院)で顔を揃えていたところを狙ったものでした。彼らを拘束することで国家権力を機能停止させようという狙いです。

テヘロ中佐たちは拳銃を片手に下院議事堂に侵入し、下院議員たちの身柄を拘束。議員たちを議席の下に身を伏せさせます。

「われわれの行動は国王およびバレンシアのミランス将軍の命令に従うものである。」

と下院議事堂本会議場で告げました。

テヘロ中佐たちは、クーデターを起こしたら、国王もこれに呼応することを期待していました。

ところが、彼らの予想に反して国王はこの行動に呼応することはありませんでした。国王はテレビを通じて、陸軍・海軍・空軍の最高司令官の立場で陸軍大将の軍服を着用して4000万人のスペイン人に対して、テレビを通して堂々と訴えかけます。

「現在、われわれが置かれている異常な状況にかんがみ、すべてのスペイン国民に一言、はっきり申し上げます。冷静さを失わず、自らを信じて対処されたいということです。

    === (一部省略) ===

民主主義はスペイン国民があの日国民投票を通して選んだ憲法に定められたものであり、これを暴力によって妨げんとする者を、スペイン国の永続と統一の象徴である王は決して許しません。」

(ホセ・ルイス・デ・ビラジョンガ著・荻内勝之訳「国王」主婦の友社・1995年)

 

憲法を形式的に解釈すれば、「国王」はスペイン憲法第62条第h号に規定された「軍隊の統帥権」を行使するためには内閣総理大臣または主任の国務大臣の「副署 (Refrendo)」が必要です (スペイン憲法第64条第1項)(こちらを参照)。しかし、副署する権限のある全て者が下院議事堂内で身柄を拘束されているため、彼らの副署承認は不可能な状況です。

国王はこういった非常事態に対して「憲法」を守るために、最善の努力を行いました。

国民へのメッセージの収録を行った後に国王はミランス将軍に対して下記のようなテレックスを送ったそうです。以下、一部ではあるが、それを紹介したいと思います。

  1. 私は現行法の枠の中で憲政の秩序を維持する不退転の決意をここに表明する。これよりのち、この意志は絶対に撤回しない。
  2. いかなるクーデターも国王を楯にとってはならない。それは謀反とみなす。
  3. 私がスペインをひとすじに思い、国旗への誓いを果たす覚悟を今日ほど強く意識したことはない。君が出した戦車は残らず兵舎に戻すように命令する。
  4. テヘロに降伏を支持するよう命令する。
  5. 私は誓って王位を退かないし、スペインを離れることもしない。反乱蜂起することは内戦を引き起こすことであり、それ相応の責任をとらせる。
  6. 私の部下の将軍たちがスペインに寄せる熱い愛国心を私は決して疑わない。
[ホセ・ルイス・デ・ビラジョンガ著・荻内勝之訳「国王」主婦の友社・1995年]

「23F事件」は、こうした国王の努力が実を結んで、結果として未遂に終わりました。

スペインの近代史は「穏健派と自由主義派との間の政争の歴史である」と述べましたが、彼らが交互に政治の中心に躍り出たきっかけになったのは「クーデター」でした。しかし、ホアン・カルロス1世国王の大英断によりこのクーデターを未遂に終わらせたことは、スペイン国民の大きな支持を呼び、民主化に貢献する結果となりました。

この点につき、平成13年(西暦2001年)11月7日に実施された「第153回国会 参議院憲法調査会 第2号」において、スペインを視察された自由民主党の野沢太三参議院議員が、

国王は軍の長でもありますが、これもシンボル的な力にすぎません。ただ、1981年2月の軍事クーデター未遂事件で、通常の政府権限が麻痺しているときに、国王がテレビで軍、政府、国民に訴え解決したことがあり、このような政府機能停止状態の場合の国王の存在は大きく、また国民の信頼も一層高まりました。

と指摘されているように、政府機能が停止した場合における国王の役割は大変に大きいことが分かります。

なお、この時の様子はYoutubeで実際に見ることができます。“23F”という言葉で検索してみてください。

スペイン憲法第99条第5項が適用された事例 – 2015年スペイン議会総選挙及び2016年スペイン議会総選挙

この章の最後に、首班指名に失敗し、スペイン憲法第99条第5項による解散の規定が実際に適用された事例をご紹介したいと思います。スペインにおける首班指名のプロセスの復習として使っていただきたい事例です。

背景

任期満了により上下院の選挙が2015年12月20日に行われました。

2011年スペイン議会総選挙が実施された時は国民党(PP)と社会労働党(PSOE)の二大政党体制でした。ところが、この4年間に既成政党への不信感から左派と中道右派の立場から新党が結成されました。それがポデモスとシウダダノスです。新党も2015年スペイン議会総選挙に参戦した結果、二大政党の票は新党に流れて二大政党体制が崩れる結果になりました。結果は下のとおりです。

国民党 (PP) 123議席
社会労働党 (PSOE) 90議席
ポデモス党 69議席
シウダダノス 40議席

下院議会は全部で350議席ですが、単独会派で政権を担うためには過半数の176議席以上が必要です。国民党(PP)は2011年の総選挙の186議席から大きく議席を減らしました。そこで、単独で政権を担うことのできない国民党(PP)としては他の政党の協力を得なければ安定した政府を作ることができません。さて、どのような結果になるのでしょうか。

ここでは政治学的な分析ではなく(選挙の分析については、[

新津吉太郎「現代スペインにおける政治変化 ―スペイン総選挙・地方選挙(2015 年)の結果分析―」『人文研究 (189)』131頁-166頁 (2016年)]などを参照されたい)、スペイン憲法第99条の条文がどのように適用されているのかという点を中心に内閣総理大臣の信任のプロセスを追っていくことにしたいと思います。

1回目の国王謁見

2016年1月22日までにフェリペ6世国王陛下は全ての会派の代表らと謁見を終えて、慣例通り第一党で与党の国民党(PP)党首のマリアノ・ラホイを首相候補として指名しました。(スペイン憲法第99条第1項)

ところが、水面下で連立協議を行っていたラホイ氏が連立を組める可能性がないということで、国王に首相候補として指名を受けたのにもかかわらず、指名を「辞退」するという異例の事態が発生します。

2回目の国王謁見そして下院による議決

では異例の事態に対してどのような対応を取ったのかというと、フェリペ6世国王陛下は2回目の謁見を行います。2016年2月2日に謁見を終了したフェリペ6世国王陛下は、今度は最大野党のスペイン社会労働党(PSOE)のペドロ・サンチェス元幹事長を首相候補として指名します。(スペイン憲法第99条第1項)

2月24日に中道右派のシウダダノスと「首相信任投票で賛成を投じる契約」が交わされ、この中でカタルーニャ州の独立機運が高まっている中、シウダダノスとPSOEの間で独立反対、憲法改正、自治州制度を連邦制度にするという点で合意しました。

2016年3月2日にとうとう下院議会で首相信任投票が実施されました。投票結果は賛成130票(PSOE90票・シウダダノス40票)、反対219票、棄権1票という結果になりました。 (スペイン憲法第99条第3項前段)

48時間後に行われた2回目の信任投票でも、賛成131票(PSOE90票・シウダダノス40票・カナリア連合1票)、反対219票の反対多数で首相選出が失敗に終わりました。 (スペイン憲法第99条第3項後段)

3回目の謁見、解散そして総選挙

政治的な混迷が深まる中、2016年4月12日にスペイン国王フェリペ6世は暫定政権中3回目の謁見を行うと発表。4月25日と26日に国王が下院議会各会派の代表らと謁見。新たにフェリペ6世国王陛下が首相を指名するかどうかが注目されましたが、当時の下院議会議長であったパチロペス氏(PSOE)に対して「首相候補者無し」と異例の判断を下されました(詳細はこちら)。

このようにして、スペイン憲法第99条第5項に基づいて2016年5月2日に議会は解散されました。

そして、6月26日に総選挙が行われました。結果は次の通りです。

国民党 (PP) 137議席(+14)
社会労働党 (PSOE) 85議席(-5)
ウニードス・ポデモス党 71議席 (新)
シウダダノス 32議席 (-8議席)

ポデモス党は議会の解散後に他政党と合併をしています。2議席増やしていますが、実質的には合併をしているために議席を減らしているという評価がされ、結果として国民党(PP)が選挙を制しました。

しかし単独過半数を獲得しているわけではないため、2015年スペイン議会総選挙と状況は変わっていません。

2016年スペイン議会総選挙を受けての国王による謁見、信任投票

2016年7月20日に上下院議会が始まります。7月28日までにフェリペ6世国王陛下は全会派の代表らと謁見、国王は首相候補を与党国民党(PP)のマリアノ・ラホイ暫定首相に決定しました。(スペイン憲法第99条第1項)

では過半数を獲得できていない国民党(PP)の党首であるラホイ暫定首相は下院による信任を得られたのでしょうか。

2016年8月31日、下院議会で行われた首相信任投票は賛成170票(国民党(PP)とシウダダノス)、反対180票で否決。48時間後に行われた2回目の信任投票でも賛成170票、反対180票で、首相選出は失敗してしまいました。(スペイン憲法第99条第3項)

再々選挙か首相信任か!?

スペイン憲法第99条第5項の規定により、2016年10月30日までに首相が決まらないと再び総選挙になってしまいます。

最大野党のスペイン社会労働党(PSOE)は再々選挙の実施に対して否定的でした。10月23日にスペイン社会労働党(PSOE)連邦委員会が開催され、スペイン社会労働党(PSOE)は首相信任投票で棄権票を投じることが決定されました。

そこで、国王は再度各会派代表らと謁見し、マリアノ・ラホイ暫定首相を再度首相候補として指名。アナ・パストール議長は10月27日に首相信任投票を実施すると発表しました。

10月27日下院議会は首相信任投票を実施、国民党(PP)、シウダダノス、カナリア連合の賛成で170票を獲得するも絶対過半数に届かず(スペイン憲法第99条第3項前段)、48時間後の10月29日に2回目の信任投票が行われることになりました。

ポデモス党の支持者たちが呼びかけた大規模なラホイ再選反対運動が国会の外で行われている中で、10月29日18時30分に下院議会で首相信任投票が行われ、賛成170票、反対111票、棄権68票でマリアノ・ラホイが首相として信任されました(スペイン憲法第99条第3項後段)。

二大政党体制が崩れていったことや選挙結果についてなどの詳細な分析は政治学などに譲るとして、法的な手続きとしてスペイン憲法第99条の各項がすべて適用された珍しい事例としてご紹介しました。

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国会が内閣の責任を問う方法

国会が内閣の責任を問う方法としては、「信任決議の否決」及び「不信任決議案の可決」する方法があり、その帰結の1つとして議会が「解散」されることがあります。

この点に絞って、日本及びスペインの制度についての比較を行っていきたいと思います。

日本の場合

信任決議の否決及び不信任決議案の可決について

日本では、衆議院で「内閣不信任決議案が可決」または「内閣信任決議が否決」された場合において、内閣は衆議院が解散しない限り総辞職しなければならない (日本国憲法第69条)という規定が設けられています。

<日本国憲法第69条>

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

内閣に対して不満が出たときに、衆議院に対して大きな権限を与えました。それが上の日本国憲法第69条です。

衆議院が内閣に対して「ダメだ」と言う意見が通った時に、内閣はどのような対応を取ることができるのでしょうか。内閣は2つの方法を選ぶことができます。つまり、10日以内に「衆議院を解散する」か「内閣が総辞職するか」を選ばなければなりません。10日以内に選ばなければならないのは、国会は国民の多数派を反映させた国家機関ですが、その国会からの承認を受けていない内閣が存在することは国の一大事だと考えます。10日という期間は国の超一大事を決める時に出てくる期間です。ちなみに、国会において衆議院で首班が指名されてから10日以内に参議院で首班指名が行われない場合に衆議院の議決となる(「衆議院優越の原則」が反映されたものの1つ)というところでも10日という数字は出てきます。先ほど日本国憲法第67条第2項の条文を引用してご紹介したところでも述べています。

なお、衆議院を解散することを選んだ場合は、衆議院は解散して選挙が行われます。(選挙については前回の講義を復習してください

解散について

解散が行われると、任期満了前に議員の資格を失います。

先ほども述べたように、衆議院で「内閣不信任決議案が可決」または「内閣信任決議が否決」された場合においては憲法第69条に基づいて衆議院が解散する場合があります。

それではもし民意を問いたいという場合に衆議院を解散することはできないのでしょうか。その場合、実務では憲法第7条第3号の条文を使います。天皇の国事行為の1つに、憲法第7条第3号で「衆議院を解散すること」とあります。国事行為は天皇が単独で(独断で)行うことはできません。内閣の助言と承認が必要であるということは前に学習したとおりです。したがって、内閣が決断を下せば天皇は衆議院を解散することができるという理屈を作りました。こうすることで、民意を問いたいという場合に衆議院を解散させることができるのです。

スペインの場合

信任決議の否決及び不信任決議案の可決について

スペインにおいて内閣の責任を国会が問う方法にはどのような方法があるでしょうか。それは2つの方法があります。1つは、「信任決議案による方法」と、もう1つは「不信任決議案による方法」があります。

信任決議案による方法

まず、「信任決議 (cuestión de confianza)案」についてはスペイン憲法第112条にその規定が存在します。

<スペイン憲法第112条>

El Presidente del Gobierno, previa deliberación del Consejo de Ministros, puede plantear ante el Congreso de los Diputados la cuestión de confianza sobre su programa o sobre una declaración de política general. La confianza se entenderá otorgada cuando vote a favor de la misma la mayoría simple de los Diputados.

内閣総理大臣は、閣議の事前の審議の後、下院に対し、その政治プログラムまたは一般政策の表明について、信任問題を提起することができる。信任は、下院議員の単純多数決により可決されたとき、授与されたものとみなす。

下院が「内閣信任決議案」を否決した場合、内閣は国王に対して辞職を申し出なければならない。そして、引き続いて、前述のスペイン憲法第99条に定められた内閣総理大臣の任命の手続きをとります。 (スペイン憲法第114条)

<スペイン憲法第114条第1項>

El Presidente del Gobierno, previa deliberación del Consejo de Ministros, puede plantear ante el Congreso de los Diputados la cuestión de confianza sobre su programa o sobre una declaración de política general. La confianza se entenderá otorgada cuando vote a favor de la misma la mayoría simple de los Diputados.

下院が内閣に対してその信任を否決したときは、内閣は、辞職を国王に申し出るものとする。この場合において、第99条に定められたところにしたがい、引き続いて、内閣総理大臣の任命の手続きをとるものとする。

内閣不信任動議について

一方、「内閣不信任動議 (Moción de Censura)案」については、スペイン憲法では別に規定が存在します。

<スペイン憲法第113条>

  1. El Congreso de los Diputados puede exigir la responsabilidad política del Gobierno mediante la adopción por mayoría absoluta de la moción de censura.
  2. La moción de censura deberá ser propuesta al menos por la décima parte de los Diputados, y habrá de incluir un candidato a la Presidencia del Gobierno.

  1. 下院は、絶対多数により不信任決議案を可決することによって、内閣の政治責任を追及することができる。
  2. 不信任決議案は、最低10分の1の下院議員がこれを提出することを要する。不信任決議案には、内閣総理大臣の候補者を含むべきものとする。

「内閣不信任動議」は、スペイン憲法第113条第2項にその要件についての規定があるように、下院議員の10分の1以上による署名が必要であり、かつ不信任決議案には、次期内閣総理大臣の候補者を明記しなければなりません。前者についてはフランス共和国憲法第49条第2項、後者については、ドイツ・ボン基本法第67条第1項の「建設的不信任制度」に範をとっていると言われています。これが可決されるためには、全下院議員の過半数の承認(絶対多数)が必要です。

「内閣不信任動議案」が可決された場合、スペイン憲法第114条第2項にその規定があるように「内閣は、国王に対して辞職を申し出るものとし、不信任決議案に含まれた候補者は第99条に定められた下院の信任ついてはこれを授与されたもの」とみなされます。つまり、新たに「国王の指名→下院による信任→就任」という手続きを取らずに内閣総理大臣が誕生します。

<スペイン憲法第114条第2項>

El Presidente del Gobierno, previa deliberación del Consejo de Ministros, puede plantear ante el Congreso de los Diputados la cuestión de confianza sobre su programa o sobre una declaración de política general. La confianza se entenderá otorgada cuando vote a favor de la misma la mayoría simple de los Diputados.

下院が不信任決議案を可決したときは、内閣は、国王に辞職を申し出るものとし、不信任決議案に含まれた候補者は、第99条に定められた下院の信任については、これを授与されたものとみなす。国王は、この者を内閣総理大臣に任命するものとする。

解散について

制度の概要

まずはスペイン憲法第115条を見てみましょう。

<スペイン憲法第115条>

  1. El Presidente del Gobierno, previa deliberación del Consejo de Ministros, y bajo su exclusiva responsabilidad, podrá proponer la disolución del Congreso, del Senado o de las Cortes Generales, que será decretada por el Rey. El decreto de disolución fijará la fecha de las elecciones.
  2. La propuesta de disolución no podrá presentarse cuando esté en trámite una moción de censura.
  3. No procederá nueva disolución antes de que transcurra un año desde la anterior, salvo lo dispuesto en el artículo 99, apartado 5.

  1. 内閣総理大臣は、閣議の事前の審議の後、その固有の責任の下において、下院、上院または国会の解散を具申することができるものとし、国王がこれを決裁するものとする。解散の勅令は、選挙の日付を定めるものとする。
  2. 解散の具申は、不信任決議案が懸案中は、これを提出することができない。
  3. 第99条第5項に定められた場合を除き、解散後1年を経過する前に、新たな解散を行わないものとする。

スペインの解散は上下院両院にあります(スペイン憲法第115条1項)。したがって、論理的には上院のみの解散もあり得えます。しかし、実質的な内閣の責任は下院が負うために現実的にはあり得ないと通説的には解されています。

この条文は、事実上内閣総理大臣に解散権があることを示すものです。

スペイン憲法第115条第1項を根拠に行われた「解散」総選挙

スペイン憲法第115条第1項を根拠に「解散」が行われた事例としては、2011年スペイン議会総選挙の事例をあげておきたいと思います。2011年7月29日にサパテロ首相(スペイン社会労働党(PSOE))が、任期満了に伴う2012年3月の両院選挙を2011年11月20日に前倒しすることを発表しました。

そこで、選挙期間等を考慮し、2011年9月26日に「下院と上院の解散及び両院の総選挙執行に関する2011年9月26日勅令第1329号(Real Decreto 1329/2011, de 26 de septiembre, de disolución del Congreso de los Diputados y del Senado y de convocatoria de elecciones)」が発令されました。これに基づき、2011年11月20日に選挙が行われました。

選挙結果は、与党であったスペイン社会労働党(PSOE)が敗れて野党の国民党(PP)が勝利し、首相の座はマリアノ・ラホイ氏に移りました。

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日本とスペインにおける「解散」の規定の仕方が異なる点は比較の急所と言えるでしょう。

まとめ

日本 スペイン
国会と内閣の関係 議院内閣制 議院内閣制
内閣総理大臣の指名・任命 指名 国会 下院
(下院の最大会派の代表を指名)
承認 下院
(憲法第99条第2項)
任命 天皇 国王
国会に対する連帯責任 行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う (憲法第66条第3項) 政治的職務執行につき、下院に対して連帯して責任を負う(憲法第108条)
内閣に対するアクション 信任決議 衆議院における単純多数決 (憲法第69条) 下院議員における「単純多数決」(憲法第112条)。
但し、組閣に先立つ信任決議の場合は、下院議員における「絶対多数決」(憲法第99条第2項)
否決された場合、内閣は総辞職 (憲法第114条第1項)
不信任決議 要件 最低10分の1の下院議員が提出
(憲法第113条第2項)
次期内閣総理大臣の候補者を記名する必要あり
(憲法第113条第2項)
効果 下院議員における絶対多数
(憲法第113条第1項)

 

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