第12回 日本とスペインの地方自治制度はどこか違うのだろうか?

最終更新日: 平成29年(西暦2017年)8月25日

はじめに

今回の講義では、「地方自治制度」について概観したいと思います。

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これまでの講義の中でも、上院の意義や憲法裁判所の権能の学習をしている時に「自治州」という言葉が登場しましたが、「自治州」も含めたスペインの「地方自治」制度について、日本との制度比較を行いながら、知識を深めていきたいと思います。

なお、スペインの地方自治制度については、[松田恵理「スペインの地方自治制度 ―自治州国家体制の新しい在り方とカタルーニャ独立運動を問う―」(レファレンス 平成28年 3 月号)]や[財団法人自治体国際化協会編「スペインの地方自治」(平成14年(2002年))]などにもくわしい記載があります。

日本の地方自治制度について

地方自治のあらまし

地方公共団体の種類

日本国憲法において、第92条から第95条までの4か条に「地方自治」についての規定が存在し、くわしいことは「地方自治法」という法律にその定めがあります。

地方自治の単位のことを「地方公共団体」といいます。「地方公共団体」は「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」とがあります。

これらはさらに具体化することができます。整理して表形式にしてまとめてみました。

地方公共団体の種類 簡単な説明
普通地方公共団体 市町村 基礎的な地方公共団体
都道府県
(1都1道2府43県)
市町村を包括する広域の地方公共団体
特別地方公共団体 特別区
(東京23区)
日本における特別地方公共団体の一種で、市に準ずる基礎的地方公共団体。
地方公共団体の組合 二つ以上の地方公共団体が特定の事務を共同で処理するために組織する団体。さらに「一部事務組合」と「広域連合」とに分けることができる。
財産区 市町村および特別区の一部で財産を有し、または公の施設を設けているものがある場合に、その財産または公の施設の管理、処分に関し、特別地方公共団体として法人格を与えられたもの(地方自治法第294条第1項)

 

現在の市町村における課題

日本の地方公共団体の財源は基本的には地方税で、例外的に地方交付税交付金や国庫支出金あるいは地方債でまかないます。

ところが、現在、子供の数が少なくなっているうえに高齢化がどんどん進んでいるため、地方税による歳入は全国的に減少の傾向にあります。すると地方公共団体の体力は落ちてきます。地方税による歳入が少なく、国からの支出や地方債に頼らざるを得ない状況に陥ってしまいます。これでは地方公共団体による住民による地方自治が立ち行かなくなってしまいます。

このような状況を背景に、国が中心となって市町村合併(しちょうそんがっぺい)を行いました。国は市町村が合併すれば、その事業費の70%を国が地方交付税という形で負担してくれるという合併特例債というアメを市町村に与えました。一方で、合併をしない市町村に対しては地方交付税交付金を減少するという政策を取りました。ですから、市町村は積極的に合併を進めていくことになりました。

市町村合併の変遷

上のような状況は一般的に「平成の大合併」と呼ばれ、市町村の数は半分に減りました。市町村合併により1団体あたりの市町村の人口規模や財政規模は増えたことになります。

スペインの市町村の規模との比較は後述します。

地方公共団体の機関について

日本における地方自治の統治機構の仕組みを簡単に見てみましょう。

日本の地方自治の統治機構の仕組み

地方自治法第96条には「議会の権限」が列挙されています。

<地方自治法第96条第1項>

  1. 条例を設け又は改廃すること。
  2. 予算を定めること。
  3. 決算を認定すること。
  4. 法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか、地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること。
  5. その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること。
  6. 条例で定める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けること。
  7. 不動産を信託すること。
  8. 前二号に定めるものを除くほか、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすること。
  9. 負担付きの寄附又は贈与を受けること。
  10. 法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること。
  11. 条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること。
  12. 普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第三条第二項 に規定する処分又は同条第三項 に規定する裁決をいう。以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において同じ。)に係る同法第十一条第一項 (同法第三十八条第一項 (同法第四十三条第二項 において準用する場合を含む。)又は同法第四十三条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において「普通地方公共団体を被告とする訴訟」という。)に係るものを除く。)、和解(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟に係るものを除く。)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。
  13. 法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。
  14. 普通地方公共団体の区域内の公共的団体等の活動の総合調整に関すること。
  15. その他法律又はこれに基づく政令(これらに基づく条例を含む。)により議会の権限に属する事項

<地方自治法第96条第2項>

前項に定めるものを除くほか、普通地方公共団体は、条例で普通地方公共団体に関する事件(法定受託事務に係るものにあつては、国の安全に関することその他の事由により議会の議決すべきものとすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。)につき議会の議決すべきものを定めることができる。

また、普通地方公共団体の長の事務については、次のようなものがあります。

<地方自治法第149条>

  1. 普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。
  2. 予算を調製し、及びこれを執行すること。
  3. 地方税を賦課徴収し、分担金、使用料、加入金又は手数料を徴収し、及び過料を科すること。
  4. 決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること。
  5. 会計を監督すること。
  6. 財産を取得し、管理し、及び処分すること。
  7. 公の施設を設置し、管理し、及び廃止すること。
  8. 証書及び公文書類を保管すること。
  9. 前各号に定めるものを除く外、当該普通地方公共団体の事務を執行すること。

日本においては、議員も執行機関(国で言う「行政機関」)の長である首長も両方とも選挙によって選出されます。この点、後述しますが、スペインの制度とは大きく異なるので、日本の制度をきちんと確認しておきましょう。

なお、日本の地方自治については、総務省のサイトに大変分かり易く解説が載っています。日本の地方自治についてくわしく勉強してみたいという皆さんにおススメです。

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スペインの地方自治制度について

地方自治の歴史について

スペインの歴史について、そのポイントを再度復習したいと思います。

  1. スペインの地形は海に囲まれている一方で大陸は山がちであるため、モノは流入するが拡散しない傾向が強くなる。したがって、スペイン各地には様々な文化が生まれ、国内に多種多様な文化が存在する。
  2. スペインが中央集権的になるのは西暦1700年の「スペイン王位継承戦争」において王位を継承したブルボン家が支配するようになってからで、緩やかな連合国家だったスペインは次第にまとまっていった。その一方で、地方の特権が剥奪され、地方は不満を持つようになった。
  3. フランコ時代において、中央集権的な性格はさらに顕著になり、地方の文化も否定されるようになった。

こういった流れを背景に、1978年憲法は地方自治について次のように定めました。

<スペイン憲法第2条>

La Constitución se fundamenta en la indisoluble unidad de la Nación española, patria común e indivisible de todos los españoles, y reconoce y garantiza el derecho a la autonomía de las nacionalidades y regiones que la integran y la solidaridad entre todas ellas.


憲法は、すべてのスペイン人の共通かつ不可分の祖国たるスペイン国の揺るぎなき統一に基礎を置き、これを構成する民族および地方の自治権ならびにこれら全ての間の結束を承認し、かつ保障する。

スペイン憲法第2条では、スペイン国内の統一を謳う一方で、「地方の自治権についてもこれを保障する」と規定しており、スペイン国内の地方自治を尊重しました。また、この他にも「地方自治」に関する憲法の本文だけでも19か条(全169条中)にのぼり、憲法は「地方自治」について手厚く保護しています。地方が抑圧された歴史があったからこその保護であるといえます。

地方団体の概観

はじめに

スペイン憲法において、国の地方組織についての通則として、次のような規定が存在します。

<スペイン憲法第137条>

El Estado se organiza territorialmente en municipios, en provincias y en las Comunidades Autónomas que se constituyan. Todas estas entidades gozan de autonomía para la gestión de sus respectivos intereses.

国は、その領域上、市町村、県及び設置される自治州でこれを組織する。すべてこれらの団体は、各々その利益のための運営の自治を享受する。

さらりと読むと、スペインの地方組織には「市町村 (Municipios)」「県 (Pronvicias)」及び「自治州 (Comunidades Autónomas)」が存在することが書かれています。ところが、もう少しきちんと読むと、「市町村 (Municipios)」「県 (Pronvicias)」の2つと「自治州 (Comunidades Autónomas)」ではその性質が異なります。くわしくはこの講義の「自治州」を取り上げる場面で説明しますが、この時点では、とりあえず、「市町村 (Municipios)」と「県 (Pronvicias)」の2つと「自治州 (Comunidades Autónomas)」とではその性質が違うという点を押さえておきましょう。

「市町村 (Municipio)」は、「国の基礎的自治行政単位 (Entidades Básicas de la Organización Territorial del Estado)」で、地方行政の最小単位であり、自治が保障され、完全な法人格を有しています。

「県 (Provincia)」は、大きく分けると2つの機能があるとされています。

  1. 国の一般行政目的を果たすための行政区画であるという側面。
  2. 県内の「市町村」が行う各種行政サービスの連携や「市町村」では補えきれない行政サービスの供与、その他支援を行う

県の機能の1番目は例えば選挙区割りがこれにあてはまります。くわしくは国会の1回目の講義で扱いました。このように知識をつなげていくと、身に付きやすくなりますよ。

また、その他憲法上では直接定められていないものの、「地方制度基盤法 (Ley 7/1985, de 2 de abril, Reguladora de las Bases del Regímen Local)」において、「市町村」が自らの権限内の特定業務を共同で行うために自発的に作る広域行政組織である「市町村共同体 (Mancomunidades Munincipios)」(構成する「市町村」は同じ県内に属する必要はないが、同じ自治州に属さなければならない)や「広域区 (Comarca)」(市町村よりは広範囲であるが県よりは狭い)などの制度が別途法律によって保障されています。

市町村 (Municipales)について

緒説

スペインの「市町村」は「国の基礎的自治行政単位 (Entidades Básicas de la organización territorial del Estado)」であるとされています(地方制度基盤法第1条第1項)。

ここでスペインの市町村の人口規模と日本の市町村の人口規模を比較してみましょう。スペインのデータは2016年1月現在のもので、スペインの国家統計局のデータからの抜粋です [INEのデータから算出]及び[スペイン政府 (Gobierno de España, Entidades Locales)のサイトより]。これに対して、日本の市町村データは、2015年(平成27年)に行われた国勢調査の全市町村の人口データを、INEが発表している区分に引き直して計算しなおしたものを次の比較表でまとめてみました。

スペイン 日本
101人未満 1286 6
101人以上500人以下 2652 10
501人以上1,000人以下 1017 20
1,001人以上2,000人以下 909 55
2,001人以上3,000人以下 482 53
3,001人以上5,000人以下 479 124
5,001人以上10,000人以下 551 244
10,001人以上20,000人以下 347 285
20,001人以上30,000人以下 154 157
30,001人以上50,000人以下 105 243
50,001人以上100,000万人以下 81 261
100,001人以上500,000万人以下 56 232
それ以上 6 29
 合 計 8125 1719

 

日本の市町村数の合計数は1718個です。上の合計数と異なるのは、比較表には「東京都23区」を入れているためです。

日本とスペインの「市町村」の規模を人口という観点から比較すると、次のようなことが分かってきます。

  1. スペインでは1,000人未満の規模の「市町村」が約6割を占めています。それに対して日本は全体の1パーセントにも満たないことから、スペインの「市町村」の人口規模の方が日本のそれよりも小規模であることが分かります。
  2. 逆に、日本は50万人以上住む「市町村」が23団体もあるのに対し、スペインはわずか6団体しかありません。「市町村」の総数を踏まえて比較をすると、日本の「市町村」の人口規模はスペインと比較すると、総じて大規模であると言えます。

スペインの人口50万人以上の都市を、 [INEのデータ (Cifras oficiales de población resultantes de la revisión del Padrón municipal a 1 de enero Reales Decretos de aprobación)]から抜粋してみました。

    都市名   人口
Madrid (マドリード) 2,882,860
Barcelona (バルセロナ) 1,496,266
Valencia (バレンシア) 739,014
Sevilla (セビーリャ) 700,716
Zaragoza (サラゴサ) 604,631
Málaga (マラガ) 531,565

 

上記の考察からも分かるように、スペインの「市町村」は一つ一つの「市町村」の規模が小さく、また「市町村民」から得られる税収も少なく経済力も弱いため、「市町村」が自発的に「市町村共同体 (Mancomunidades Municipios)」をつくり、上下水道・ゴミ処理・消防・福祉・機械の共同所有等の業務を行っています。日本では「一部事務組合」で行うことが多いですね。もちろん「市町村」の権限全てを「市町村共同体」に委任することはできません。「市町村共同体」は、同一県内である必要もなく、また地理的にも隣接している必要もありませんが、同一の自治州内でなければならないとされています (「地方制度基盤法 (Ley 7/1985, de 2 de abril, Reguladora de las Bases del Regímen Local)」第44条)。スペイン全土には950余りの「市町村団体」が存在しており、よく利用されている制度のようです。

市町村の統治機構

市町村における統治機構は「市町村議会 (Ayuntamiento)」であり、それは原則として「市町村長 (Alcalde)」及び「市町村議会議員 (Concejales)」から構成されます。ここで急所となる知識は、「市町村議会 (Ayuntamiento)」は本会議及び執行機関の両方を含む概念である点という点です。

スペインにおける市町村議会のしくみ

市町村議会議員 (Concejales)」は直接普通選挙によって選出されます。選挙方式は「名簿式比例代表制度」が採られています。当選した市町村議会議員のメンバーは「議会 (Pleno)」を開き、そこで絶対多数決により市町村議長を選出します。「市町村議会議長」は「市町村長 (Alcalde)」でもあります。議員の任期は4年で、選挙権及び被選挙権は18歳から有します。

「市町村」の統治機構は、人口規模によって、細かい部分で異なっています。

  • 市町村議会本会議 (Pleno)の定例議会は、人口2万人を超える「市町村」については最低月に1回、5000人超2万人以下の「市町村」は最低2ヶ月に1回、5000人以下の「市町村」は最低3ヶ月に1回開かれる。 (地方制度基本法第46条第2項)
  • 次のような場合において、「住民総会 (Consejo de Abierto)方式」をとる。これは、議員が存在せず、全ての選挙人が議会に参加する方式である。一種の「直接民主制」であるといってもよい。 (地方制度基本法第29条)
    • 人口が100人未満の「市町村」
    • 「市町村」の状況から制度導入が望ましい場合
    • 伝統的に「住民総会方式」を採っている場合。

市町村の権限については次のようなものがある。地方自治基本法第26条によると、まずすべての市町村においては、街灯・墓地・家庭廃棄物の収集・公道の維持・上下水道・道路整備、舗装・飲食品の管理があります。次に人口に応じて与えられる権限が異なるので、人口別に紹介してみたいと思います。

  • 人口5000人以上の市町村では、公園・図書館・市場・ゴミ処理などを行うことができる。
  • 人口2万人以上の市町村では、広域災害防止・福祉サービスの提供・火災予防と消火・スポーツ施設の設置などが行政サービスとしてできる。
  • 人口5万人以上の市町村になると、公共都市交流や環境保全などといったことも行政サービスとしてできるようになる。

県 (Provincia)について

緒説

スペイン国内には現在50個の「 (Provincia)」が存在します。

「県 (Provincia)」の特長については、スペイン憲法第141条に明記されています。

<スペイン憲法第141条>

  1. La provincia es una entidad local con personalidad jurídica propia, determinada por la agrupación de municipios y división territorial para el cumplimiento de las actividades del Estado. Cualquier alteración de los límites provinciales habrá de ser aprobada por las Cortes Generales mediante ley orgánica.
  2. El Gobierno y la administración autónoma de las provincias estarán encomendados a Diputaciones u otras Corporaciones de carácter representativo.
  3. Se podrán crear agrupaciones de municipios diferentes de la provincia.
  4. En los archipiélagos, las islas tendrán además su administración propia en forma de Cabildos o Consejos.

  1. 県は、固有の法人格を有する地方団体であり、市町村の集合及び国の活動遂行のための地域区分によって特定される。県境のいかなる変更も、国の組織法により、国会がこれを承認することを要する。
  2. 県の統治及び自治行政は、県議会またはその他の代議制の機関に、これを付託するものとする。
  3. 県の中で相異なる市町村の集合を設けることができるものとする。
  4. 群島においては、各々の島は、市町村議会または島議会の形式において、固有の行政機関を有するものとする。

上の条文を参考に、2つの特長を抽出してみます。

  1. 県は市町村の集合体として特定される。
  2. 国の活動を遂行するための地域区分によって特定される。

憲法で上記のように定められていることを受けて、地方制度基本法第36条では「県」の権限を次のように規定しています。

  • 市町村間のサービスの調整。
  • 市町村を司法・経済・技術面で援助、協力する。(特に財政的・行政機能的能力の乏しい市町村に対して)
  • 複数の市町村または複数の広域区 (Comarca)にわたる広域行政サービスの提供。
  • 県固有の利益の振興と運営。

また、この他にも、

  • 自治州又は国と共に地方行政の調整に加わること。
  • 国又は自治州の法律により委譲されている公共事業の異なる部門間の調整。
  • その他自治州が委任する権限。

といった役割も担っています。

県の統治機構

「県」の統治機構は「県議会 (Diputación Provincial)」です。「県議会 (Diputación Provincial)」は「県議会議長 (Presidente de la Diputación Provincial)」「常務理事会 (Comisión de Gobierno)」及び「本会議 (Pleno)」から構成されます。

スペインにおける県議会のしくみ

ここで、「県」の統治機構を理解する際に重要なポイントを2つ挙げておきたいと思います。1つは「本会議」を構成する「県議会議員 (Diputados Provinciales)」について、もう1つは「県議会議長 (Presidente de la Diputación Provincial)」の役割についてです。

まず、「県議会議員 (Diputados Provinciales)」の住民による直接選挙は存在しません。「県議会議員」は、県内の市町村議会議員から間接選挙によって選出されます。県議会議員は市町村議会議員選挙における得票率に応じて、県議会で議席を与えられます。言い方を換えれば、「県議会議員は、すべていずれかの市町村議会議員である」と言えます。

次に、「県議会議長 (Presidente de la Diputación Provincial)」についてなのですが、原則として県議会議員の中から絶対多数決によって選ばれます。「県議会議長」の役割は、地方制度基本法第34条によると次のようなものが列挙されています。

  • 県議会の長としての権限 (例えば、議会の招集・議会の主宰・議決した事項の遂行など)
  • 地方団体としての県の最高代表
  • 行政部局の長としての権限 (例えば、行政部局の指揮監督、推進及び検査・職員の長としての職務・支出の命令など)
  • その他自治州が委任する権限

つまり、「県議会議長」は立法機関の長としての役割と行政機関の長としての役割を担っているのです。

自治州について

緒説

ここからは「自治州 (Comunidad Autónoma)」についてお話を展開していきたいと思います。

今まで概観してきた「市町村 (Municipios)」や「県 (Provincias)」のような「地方団体 (Entidades Locales)」と「自治州 (Comunidades Autónomas)」の性質的な違いはどの点にあるのでしょうか。主な点を挙げてみたいと思います。

  1. 自治州は必置機関ではない。
  2. 自治州は、各自治州によって形態や規模がまちまちである。
  3. 自治州は政治的自治の意味合いをもった団体である。
  4. 自治州は、国の法律を制定する権利がある。

また、自治州については、憲法第143条第1項に次のような規定があります。

<スペイン憲法第143条第1項>

En el ejercicio del derecho a la autonomía reconocido en el artículo 2 de la Constitución, las provincias limítrofes con características históricas, culturales y económicas comunes, los territorios insulares y las provincias con entidad regional histórica podrán acceder a su autogobierno y constituirse en Comunidades Autónomas con arreglo a lo previsto en este Título y en los respectivos Estatutos.


憲法第2条で認められた自治権の行使において、共通の歴史的、文化的及び経済的性格を有する隣接県、島嶼地域並びに歴史的一体性を有する県は、自治を求めかつ本編(筆者註: 国の地方組織)および各々の憲章に定められたところに従い、自治州を構成することができるものとする。

「共通の歴史的、文化的及び経済的性格を有する隣接県、島嶼地域並びに歴史的一体性を有する県は、自治州を構成することができるものとする」とあり、「県」や「市町村」とは違って、「自治州」は憲法上必要な機関ではないのです。したがって、自治州を設立することは「県」や「島嶼」の権利であるということができます。

地方団体
(県・市町村・島嶼など)
自治州
必置機関か? 必置機関である 必置機関でない
制度は全国一律的か? 全国一律的である 全国一律的でない
機関の性質 行政的意味合い 政治的意味合い
立法発議権 ない あり

 

「県」が「国の活動を遂行するための地域区分(スペイン憲法第141条)」とあるように、「地方団体」の性質は国の行政政策的な性質があります。それに対して、自治州は自ら自治を求めて作る組織であることから、国に対して「モノ言う」存在として認めており(例えば、自治州が国の「法律」の立法発議者のうちの1つの機関である点につき、国会の2回目の講義を参照)、政治的意味合いの濃い組織であるといえます。

第2回から第4回まで(特に第2回)で学習したように、イベリア半島は様々な国が入れ替わりながら独特な文化を作ってきました。ところが、第3回目で学習したように「スペイン王位継承戦争」以来、スペインの「カスティーリャ化」が進むことで、カスティーリャ以外の文化はないがしろにされ、特にフランコ時代には激しい弾圧を受けてきました。そういった中で、1978年憲法は各地方の個性を残しながらスペインという国家を作っていくことを宣言しました。

自治州の現状

スペイン憲法では「自治州を設置できる」という規定がありました(法的には自治州のない地域の存在も想定している)が、結局スペイン全土に自治州が置かれるに至っています。

現在、スペインには17の自治州と2つの自治都市が存在します。法的には自治州も自治都市も同じです。

自治州の学習を始める前に、まずは現在の自治州の状況をまとめてみました。リンクは各自治州の公式ホームページに行けるようになっています。言語は自治州によってまちまちですが、カスティーリャ語(スペイン語)の他に公用語となっている言語や英語のページなどが併設しているところもあり、いずれも興味深い作りになっています。自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)が掲載されているウェブサイトが多いので、各々の自治州の自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)について調べるような場合は、ウェブサイトをご覧になるとよいでしょう。

下に示してる動画は当研究室が作成したもので、スペインの17個の自治州の位置と自治州旗を簡単にご紹介したものです。2分弱の短い動画でまとめたので、必ず一度はご覧下さい。

自治州旗については、次の通りスペイン憲法の中に規定が存在します。簡単に条文を見ておきましょう。

<スペイン憲法第4条第2項>

Los estatutos podrán reconocer banderas y enseñas propias de las Comunidades Autónomas. Estas se utilizarán junto a la bandera de España en sus edificios públicos y en sus actos oficiales.


自治州憲章は、その独自の旗及び旗章を認めることができるものとする。自治州旗及び自治州章は、その公共建造物およびその公式行事において、スペイン国旗と並び、これを用いるものとする。

なお、「国旗」「自治州旗」「市町村旗」及び「EU旗」の掲揚についてのプロトコルは次のようになっています。

国旗と自治州旗と市旗を掲揚する場合のプロトコル

国旗と自治州旗と市旗とEU旗を掲揚する場合のプロトコル

それでは、17の自治州と2つの自治都市を簡単に紹介したいと思います。人口は2016年1月現在のデータを[INEのデータ]参照しています。

  • アラゴン自治州 (Aragón)
    • 州都: サラゴサ
    • 所属県名: ウエスカ県、サラゴサ県、テルエル県
    • 人口: 1,308,563
    • 面積: 47720平方km
  • アンダルシア自治州 (Andalucía)
    • 州都: セビーリャ
    • 所属県名: アルメリア県、ウエルバ県、カディス県、グラナダ県、コルドバ県、セビーリャ県、ハエン県、マラガ県
    • 人口: 8,388,107
    • 面積: 87559平方km
  • カナリア自治州 (Canarias)
    • 州都: サンタ・クルス・デ・テネリフェ、ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア (1年交替)
    • 所属県名: サンタクルス・デ・テネリフェ県、ラス・パルマス県
    • 人口: 2,101,924
    • 面積: 7447平方km
  • ガリシア自治州 (Galicia)
    • 州都: サンティアゴ・デ・コンポステーラ
    • 所属県名: オレンセ県、ラ・コルーニャ県、ルゴ県
    • 人口: 2,718,525
    • 面積: 29575平方km
  • バスク自治州 (País Vasco)
    • 州都: ビトリア
    • 所属県名: アラバ県、ギプスコア県、ビスカヤ県
    • 人口: 2,189,534
    • 面積: 7234平方km

自治州の設立について

自治州の設立方法

スペインの自治州はどのように設立するのでしょうか。まずは条文を2つご覧ください。

<スペイン憲法第143条第2項>

La iniciativa del proceso autonómico corresponde a todas las Diputaciones interesadas o al organo interinsular correspondiente y a las dos terceras partes de los municipios cuya población represente, al menos, la mayoría del censo electoral de cada provincia o isla. Estos requisitos deberán ser cumplidos en el plazo de seis meses desde el primer acuerdo adoptado al respecto por alguna de las Corporaciones locales interesadas.

自治のための手続の発議は、当該の全ての県議会または当該の島際機関および各々の県又は島の市町村の3分の2にしてその人口が各々の県又は島の選挙人の過半数を占める市町村がこれに該当する。当該の地方団体の何れかにより、自治権請求の最初の議決が採択されてより6ヶ月の期間内に、これを充足することを要するものとする。なお、自治州設置の発議が成らなかった場合については、5年を経過しなければ再び発議をすることはできない


<スペイン憲法第151条>

No será preciso dejar transcurrir el plazo de cinco años, a que se refiere el apartado 2 del artículo 148, cuando la iniciativa del proceso autonómico sea acordada dentro del plazo del artículo 143, 2, además de por las Diputaciones o los órganos interinsulares correspondientes, por las tres cuartas partes de los municipios de cada una de las provincias afectadas que representen, al menos, la mayoría del censo electoral de cada una de ellas y dicha iniciativa sea ratificada mediante referéndum por el voto afirmativo de la mayoría absoluta de los electores de cada provincia en los términos que establezca una ley órganica.

自治州設置の発議が、第143条第2項の期間内に、各々の県議会又は島際機関による議決の他、当該の各々の県の市町村の4分の3にして各々の県の選挙人の過半数を占める市町村により採択され、かつ、その発議が、組織法の定める条件において、各々の県の選挙人の絶対多数の賛成票を以って、住民投票による承認を得た時は、第143条第2項にいう5年間の期間を経過することを要しない

ここで上の条文の内容の重要なポイントを表形式でまとめておきましょう。

 

憲法第143条第2項 憲法第151条
設置方法 各県議会における議決の他に、全市町村議会の3分の2以上の賛成によって申請がなされる。 自治州を構成する全市町村の議会で4分の3以上の賛成が得られれば、その地方の住民投票によって自治州設置の可否を問う。
自治州設立時 憲法第148条第1項に列挙される権限のみしか付与されない。 憲法第148条第1項に列挙される権限よりも広い権限を有する。
自治州設立後 設置後5年が経過した時点で自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)を改正して権限を拡大できる。 自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)の改正によらず、国は組織法によって自らの属する権限のうち委任に適したものを自治州に委任できる。

 

いずれの設置方法であっても、自治州の設置には「自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)」の制定が不可欠です (憲法第143条第1項)。その後、各々の自治州憲章は、自治州を構成する県の県議会議員及び当該の県から選出された下院議員及び上院議員からなる会議において、起草された自治州憲章の草案が国会において法律として承認される必要があります。「法律」は「組織法 (Ley Orgánica)」として承認されなければならなりません。 (スペイン憲法第81条、第146条及び第147条第1項)

自治州の設立の歴史

1975年11月に全ての国家権力を掌握していたフランコ (Francisco Franco Bahamonde)が死亡した後に政権を握った民主中道連合 (UCD: Unión de Centro Democrático)は、自由化政策の一環として、スペイン各地の自治権要求に応じる方針を採りました。

時系列的に、憲法制定前の自治州設置の歴史を見ていくと、

  • 1976年7月 スワレス首相の施政方針演説において自治州を認めることが明らかにされる。
  • 1977年9月 カタルーニャ地方に暫定的かつ制限的にではあるが、自治権が付与される。
  • 1978年1月 バスク地方に暫定的かつ制限的にではあるが、自治権が付与される。
  • 1978年3月 ガリシア地方に暫定的かつ制限的にではあるが、自治権が付与される。
  • 1978年10月 暫定的かつ制限的に自治権が付与された地方は13にのぼった。

とあり、憲法制定前からすでにスペインは一種の「連邦制」の国家が誕生してしまうのではないかという危惧が一部から起こりました。

そこで、憲法に「経過規定 (DISPOSICIONES TRANSITORIAS)」を設け、「暫定自治州の最高合議体が憲法制定後3年以内に自治州認定の申請をしなければならない。そうしなければ、暫定自治機関は解消したものとみなす (経過規定第7c号)」とし、一定のハードルを設けました。

憲法施行後、各暫定自治州は憲法第143条第2項、第151条及び経過規定に則り、自治権の獲得に動き出しました。13の暫定自治州が憲法第143条第2項に基づく自治州設置の手続きを、カタルーニャ、バスク、ガリシア及びアンダルシアの各暫定自治州は、憲法第151条に基づく自治州設置の手続きを開始しました。但し、カタルーニャ、バスク及びガリシアの3つの自治州は、フランコによる独裁政治の前までに効力があった「1931年共和国憲法」下において、住民投票において「自治州憲章」を承認したという経緯があり、経過規定第2号に基づき、暫定州議会の絶対多数による合意及びその政府通告という迅速かつ簡便な手続のみで直ちに自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)を制定しました。カタルーニャ、バスク及びガリシアの各自治州を「歴史的自治州」と呼びます。

以下の表は、最初に「自治州設置」が認められた時の組織法の一覧です。掲載順は、組織法によって設置が承認された年代順・アルファベット順になっています。

自治州名
自治州条例を承認した組織法名
設置方法
バスク自治州
Ley Orgánica 3/1979, de 18 de diciembre, de Estatuto de Autonomía para el País Vasco 151条+経過措置第2号
カタルーニャ自治州
Ley Orgánica 4/1979, de 18 de diciembre, de Estatuto de Autonomía de Cataluña 151条+経過措置第2号
ガリシア自治州
Ley Orgánica 1/1981, de 6 de abril, de Estatuto de Autonomía para Galicia 151条+経過措置第2号
アンダルシア自治州
Ley Orgánica 6/1981, de 30 de diciembre, de Estatuto de Autonomía para Andalucía 151条
カンタブリア自治州
Ley Orgánica 8/1981, de 30 de diciembre, de Estatuto de Autonomía para Cantabria 143条
ラ・リオハ自治州
Ley Orgánica 3/1982, de 9 de junio, de Estatuto de Autonomía de La Rioja 143条
ムルシア自治州
Ley Orgánica 4/1982, de 9 de junio, de Estatuto de Autonomía para la región de Murucia 143条
アストゥリアス自治州
Ley Orgánica 7/1982, de 9 de junio, de Estatuto de Autonomía para Asturias 143条
バレンシア自治州
Ley Orgánica 5/1982, de 1 de julio, de Estatuto de Autonomía de la Comunidad Valencia.
Ley Orgánica 12/1982. de 10 de agosto, de transferencia a la Comunidad Valencia de competencias en materia de titularidad estatal.
143条
アラゴン自治州  
Ley Orgánica 8/1982, de 10 de agosto, de Estatuto de Autonomía de Aragón 143条
カスティーリャ・ラ・マンチャ
自治州
Ley Orgánica 9/1982, de 10 de agosto, de Estatuto de Autonomía de Castella-La Mancha 143条
カナリアス自治州
Ley Orgánica 10/1982, de 10 de agosto, de Estatuto de Autonomía de Canarias
Ley Orgánica 11/1982, de 10 de agosto, de transferencias commolementarias a Canarias
143条
ナバーラ自治州
Ley Orgánica 13/1982, de 10 de agosto, de Reintegración y Amejoramiento del Regímen Foral de Navarra 経過措置第4号
エストレマドゥーラ
自治州
Ley Orgánica 1/1983, de 25 de febrero, de Estatuto de Autonomía de Aragón 143条
バレアレス
自治州
Ley Orgánica 2/1983, de 25 de febrero, de Estatuto de Autonomía para las Islas Baleares  143条
マドリード自治州
Ley Orgánica 3/1983, de 25 de febrero, de Estatuto de Autonomía de la Comunidad de Madrid 143条
カスティーリャ・イ・レオン
自治州
Ley Orgánica 4/1983, de 25 de febrero, de Estatuto de Autonomía de Castella-León.
Ley Orgánica 5/1983, de 1 de marzo, por la que se aplica el artículo 144 c) de la Constitución a la provincia de Segovia
143条
セウタ
Ley Orgánica 1/1995, de 13 de marzo, de Estatuto de Autonomía de Ceuta 143条
メリーリャ
Ley Orgánica 2/1995, de 13 de marzo, de Estatuto de Autonomía de Melilla 143条

 

上記のリストについて、3つのポイントをあげたいと思います。1つはナバーラ州について、2つ目はセウタ及びメリーリャについて、3つ目はバレンシア州及びカナリアス州についてです。

まずナバーラ自治州についてです。他の自治州とナバーラ州との間で決定的に違うのは、自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)という言葉が組織法の名前の中に存在していないこと、換言すれば「自治州憲章」が「自治州」なのに存在しないことと、憲法第143条第2項でも憲法第151条でも経過措置第2号でもない方法で自治州の設置が行われていることです。

ナバーラ自治州旗

ナバーラ自治州は、自治州憲章の代わりに「Reintegración y Amejoramiento del Regímen foral de Navarra (ナバーラ特別法制区域における再統合とその改善)」と呼ばれるものがあり、これが自治州憲章に替わるものとなっている点です。さすれば、なぜ自治州憲章の代わりに「ナバーラ特別法制区域における再統合とその改善」という名前を付けて、ナバーラ自治州の自治権を認めているのでしょうか。それは、”Reintegración y Amejoramiento”という言葉に着目すると分かるとおり、「再統合」だの「改善」だのという言葉は、前提としてあたかも元々「自治権」が存在しているかのように解釈することができますが、実際に「ナバーラ」は歴史的にも脈々と自治権を受け継いできている地域だからです。

「ナバーラ」は、8世紀からフランコ時代においても中断されることなく現在に至るまで脈々と「自治権」を享受し続けているという土地柄 (カタルーニャなどは今まで概観して明らかなように、自治権を剥奪された歴史を持っている)で、実は法的にはスペインという国の中に「ナバーラ王国」が存在し、現在においても法律上は「王国」の位置づけなのです。そのため、ナバーラ自治州においては、「経過措置第4号」で、

<スペイン憲法経過措置第4号>

En el caso de Navarra, y a efectos de su incorporación al Consejo General Vasco o al régimen autonómico vasco que le sustituya, en lugar de lo que establece el artículo 143 de la Constitución, la iniciativa corresponde al Órgano Foral competente, el cual adoptará su decisión por mayoría de los miembros que lo componen. Para la validez de dicha iniciativa será preciso, además, que la decisión del Órgano Foral competente sea ratificada en referéndum expresamente convocado al efecto, y aprobado por mayoría de los votos validos emitidos.


ナバーラの場合において、そのバスク政務院またはこれに代わるバスク自治組織への併合のためには、本憲法第143条の規定に代えて、その発議権は、当該地方機関に属し、この機関が、その構成員の過半数により、併合の決定を採択するものとする。この発議が有効なためには、さらに、当該の地方機関の決定が、目的を明示して布告された住民投票により、有効投票の過半数を以て承認されることを要するものとする。

という条項を特別に設け、「ナバーラ」については、カタルーニャやバスクなどの「歴史的自治州」以上に容易に憲法下で自治権を享受できる仕組みを整えたのです。

2番目にセウタ及びメリーリャについて言及しておきましょう。これら2つは、

  • アフリカ (モロッコ)にある飛び地であること
  • 面積・人口も、セウタが22平方キロメートル・72000人で、メリーリャが12平方キロメートル・67000人しかないということ
  • 歴史的にも大変特殊な領土である

等の理由で、独自の特別自治権を有する市です。これが「自治都市 (Ciudad Autónoma)」です。

最後の3つ目のバレンシア州及びカナリアス州についてでです。これらは、法的には憲法第151条に規定されている設置方法で自治州が設置されていますが、自治権の権限レベルに鑑みると、経過規定等を使わずに151条を適用して自治州を設置したアンダルシア自治州と同じレベルに達しているので、実質的には憲法151条による設置であるとみなされることがある、という点です。

自治州の統治機構

自治州の統治機構は、自治州の名称から立法機関や行政機関の名称に至るまで自治州によって異なりますが、以下に述べる点は共通する部分です。

自治州の立法機関・議決機関である「自治州議会 (Asamblea Autonómica又はParlamento Autonómico)」と執行機関である「自治州内閣 (Gobierno Autonómico)」から成り、自治州統治機構を総称して「自治州統治機関 (スペイン語での呼称は各自治州によって異なるが、一般的にはInstitución de Autogobiernoなどと呼ばれる)」と呼びます。なお、司法機関は国の固有の権限であるため、自治州では設置できません。

また、自治州によっては、自治州の行政を監視して当局に対して助言や忠告を行なう自治州オンブズマン (Defensor de Pueblo en las Comunidades Autónomas)の制度を設けたり、自治州政府や公社の効率的・合理的な予算執行を行っているかどうかをチェックする会計院 (Tribunal de Cuentas)を設けているところもあります。

ざっくりと概観したところで、自治州統治機関についてもう少し詳しく見ていくことにしましょう。

最初に自治州議会です。自治州議会は、一院制で任期は一律4年、選挙方式は比例代表制 (ドント方式)。自治州議会の基本的機能は、次に掲げるものです。

  1. 自治州の法律の制定
  2. 自治州政府の活動の監視
  3. 自治州首相の選出
  4. 自治州首相に対する不信任動議によって自治州首相の政治責任を追及
  5. 国会に対して「法律提案 (Proposición de Ley)」を行うこと(国会の2回目の講義を参照
  6. 上院議員の選出 (各自治州1名ずつ+人口100万人につき1人)(国会の1回目の講義を参照

次に自治州内閣である。自治州内閣も各自治州によって名称や機構も様々であるが、大まかに共通する部分を紹介したいと思う。

自治州首相は自治州を代表し、自治州議会による首班指名選挙により自治州議会の信任の結果として選任され、国王から任命されます。自治州首相が任命されると自治州内閣のメンバー(大臣: Consejero)を選任します。

自治州内閣の権限としては、規則 (reglamentos)の制定、各種の独立機関や公社を有することができますが、外交機関を有することはできません。これは、後述するとおり、国の専管的権限であるからです。

自治州の権限

ここでは、国と自治州の権限の関係について触れたいと思います。

まず、憲法第149条第1項にて国の専管事項が列挙されています。裏から読めば、自治州はこれらの国の専管事項を行うことはできないことになります。それを列挙すると、

  1. 人権の行使、憲法条項の義務の履行において全スペイン人の平等を保障する基本的条件に関する法規定
  2. 国籍・移民・外国人・亡命
  3. 国際関係
  4. 防衛・軍
  5. 司法行政
  6. 商法、刑法、民事・刑事訴訟法
  7. 労働立法
  8. 民事立法(各自治州の固有の法を侵害しない範囲で)
  9. 知的所有権に関する立法
  10. 税関・海外取引
  11. 貨幣制度
  12. 度量衡の単位、公的なオフィス・タイム
  13. 経済活動の全般的な促進と調整
  14. 国庫・国債
  15. 科学技術の促進と調整
  16. 検疫、全般的な保健機構、薬剤に関する立法
  17. 自治州による義務を損なわない範囲での社会保障に関する立法
  18. 行政の法的基盤、公務員の取り扱い
  19. 領海での漁業
  20. 海運、船籍、港湾、空港
  21. 複数の自治州にわたる鉄道、陸上全般的なコミュニケーション、郵便・電信
  22. 複数の自治州にわたる河川の利用や発電施設
  23. 環境保護の基本立法
  24. 全般的な公共事業
  25. 鉱山・エネルギー
  26. 武器・火薬類の製造、販売、所持
  27. 新聞・ラジオ・テレビなどのコミュニケーションに関する基本立法
  28. 国の文化遺産の流出・略奪の保護、国の文化施設の管理
  29. 学位などの取得に関する法規定
  30. 治安 (但し自治州が警察を創設することは妨げない)
  31. 国の目的に資する統計
  32. 住民投票実施の承認

があります。

但し、上記のような「国の専管事項」であっても、性質上委任に適した国の権限は自治州に移管することが可能です (スペイン憲法第150条第2項)。例えば、教育に関する権限の移管、カタルーニャ自治州やバスク自治州では医療や警察などの権限を移管しています。

権限の移管の状況は各自治州によって異なり、ある自治州で移管されている権限が別の自治州では移管されていないといったことも起こっています。 なお、憲法第149条第1項で列挙されていない事項でも、自治州が自治州憲章に列挙していない権限は国の権限になります(スペイン憲法第149条第3項)。

一方、自治州の基本的な権限は下記のようなものです。

  1. 自治州政府の機構
  2. 自治州内市町村の境界の変更、国の法律の定める範囲内での自治州内地方機関に関する国行政の役割
  3. 自治州の領域、都市、住宅整備
  4. 自治州内の公共事業
  5. 自治州内の鉄道、道路これらによる輸送
  6. 商業活動を伴わない避難港、スポーツ利用の港湾、空港施設等
  7. 経済の全般的枠組の中での農・畜産業
  8. 山林の利用
  9. 環境保全
  10. 自治州内の用水、運河、灌漑に関する計画・建設・運営、鉱泉
  11. 河川・湖沼での漁、養殖、猟
  12. 自治州内での見本市
  13. 国の経済政策に沿った自治州内での経済発展の促進
  14. 手工業
  15. 自治州内の博物館、美術館、音楽院等
  16. 自治州の文化遺産
  17. 文化・研究の奨励、自治州の公用語の教育
  18. 自治州内の観光振興
  19. スポーツや娯楽の適切な利用の促進
  20. 社会扶助
  21. 保健衛生
  22. 建物・施設の警備や保護、組織法が定める範囲内での地方警察に関する調整その他の権限

自治州の権限は、スペイン憲法第148条第1項に列挙される権限を基礎とし、国の専管事項であるスペイン憲法第149条第1項に列挙されている権限を含まないのが原則です。しかし、前述したとおり、スペイン憲法第149条第1項に列挙されている事項があったとしても、性質上委任に適した国の権限は自治州に移管することができます (スペイン憲法第150条第2項)。

最後に、「自治州」と「県 (Provincia)」との関係において、自治州の中に1つの県しか存在しない場合について言及しておきたいと思います。そのような場合、両方の機関を置く意味がないために「県議会」をなくし、県の権能は代わりに自治州が行います。

国と自治州の関係について

ここでは、国(中央)と自治州の関係について述べたいと思います。

まず、国(中央)は各自治州毎に「政府代表 (Delegado del Gobierno)」を1人派遣します。自治州における中央政府の代表であり、自治州内の国家行政を指揮し、「自治州又はその管内の地方団体の固有の行政」と「地方における国会行政」との調整を行う役割を持っています。政府代表は内閣総理大臣の指名に基づき、閣議勅令によって任免されます。

「政府代表 (Delegado del Gobierno)」は、博士号、修士号、工学士、建築士その他同等の資格を有する国家公務員、自治州公務員又は地方団体の公務員の中から「政府代表補佐 (Subdelegado del Gobierno)」に任命する権限を持ちます。政府代表補佐は各県に置かれていますが、「1自治州=1県」の「県」には設置されません。

「政府代表 (Delegado del Gobierno)」も「政府代表補佐 (Subdelegado del Gobierno)」も、それぞれ自治州や県の機関ではない点に注意しましょう。

おわりに

今回は、スペインの地方自治制度について下記のような内容について学習した。

  1. 講義の冒頭で概観したスペインの歴史の内容をを踏まえ、スペインにおける地方自治の歴史について概観した。
  2. 1978年憲法体制以前から存在するスペインにおける市町村および県について概観した。
  3. 1978年憲法体制の中で最も注目されるスペインにおける自治州制度について概観、市町村および県の制度を比較した。
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スペインは、アメリカ合衆国のような「州 (State)」の制度ではなく、基本は「中央政府」にあるものの、かなり広範な権限を自治州に与えているといえよう。

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