第10回 スペインと日本の裁判制度と国民の司法参加の方法を比較してみよう

最終更新日: 平成29年(西暦2017年)8月24日

はじめに

国民の多数派が中心となって作られる国会や内閣があったとしても、それで私たちの大切な人権が保障されるわけではありません。基本的人権が侵害されて納得できないことがあった場合にきちんと主張できる適切な場がなければなりません。司法機関とはまさにそういった場です。

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今回は日本とスペインの司法制度を比較してみたいと考えます。最初に「裁判を受ける権利」についての規定を簡単に確認した後、「司法権の独立」「三審制」「国民の司法参加」の3つのトピックを中心に講義を展開していこうと思います。

なお、スペインにおける人権保障制度の中核の1つと言っても過言ではない「憲法裁判所」については、次回の講義で丸ごと取り上げますので、今回は一切取り上げません。次回の講義を楽しみにしてください。

裁判を受ける権利

日本における規定

日本国憲法では、「裁判を受ける権利」が明記されています。条文を確認してみましょう。

<日本国憲法第32条>

何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

スペインにおける規定

スペインにおいても同様の条文が存在します。

<スペイン憲法第24条第1項>

Todas las personas tienen derecho a obtener la tutela efectiva de los jueces y tribunales en el ejercicio de sus derechos e intereses legítimos, sin que, en ningún caso, pueda producirse indefensión.


何人も、その権利および正当な利益の行使において、裁判官および裁判所の実効的保護を得る権利を有する。如何なる場合においても、弁護権はこれを奪ってはならない。

司法制度についての比較

裁判官の独立

裁判官の独立は、国民の人権を守るために大切な原理であると言われています。なぜならば、仮に国会議員や行政府が裁判に介入できるとすれば、裁判はこれらのものに有利な内容になってしまう可能性があり、国民の人権が害される恐れがあるからです。

したがって、司法権という権力は次の2つの性質があると考えられます。

  1. 司法権とは、非政治的な権力である。 (したがって、その他の政治的権力である立法権や行政権から侵害されることを防がなければならない)
  2. 司法権は、裁判を通じて国民の権利を保護する職責を有している。

司法権がこのような性質の権力であることから、司法権を司る裁判官もまた独立性が保障されていなくてはなりません。

日本における裁判官の独立

日本ではどのように裁判官の独立が保障されているのでしょうか。日本国憲法第76条第3項の「裁判官の独立」の規定を見てみましょう。

<日本国憲法第76条第3項>

すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

スペインにおける裁判官の独立

スペインにおける「裁判官の独立」についての規定は、スペイン憲法第117条第1項に存在します。

<スペイン憲法第117条第1項>

La justicia emana del pueblo y se administra en nombre del Rey por Jueces y Magistrados integrantes del poder judicial, independientes; inamovibles, responsables y sometidos únicamente al imperio de la ley.


正義は国民に発し、司法権の構成要素たる裁判官が、国王の名において、これを司る。裁判官は、独立にして罷免されず、法律の命令に対してのみ責任を負い、かつこれに従う。

日本国憲法とスペイン憲法を比較すると、形式論ではありますが「国王の名において」裁判官が司法権を司るという点で異なりますね。この点、大日本帝国憲法第57条第1項の規定と類似しているといえます。

<大日本帝国憲法第57条第1項>

司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ

スペイン憲法でも大日本帝国憲法でも、国王や天皇が勝手に裁判をしてもよいと述べているのではなく、「国王や天皇の権威を以って」司法権を行使すると解釈すべき場面です。そういった意味で、類似していると申し上げているのです。

司法権の独立を担保する制度

日本における司法権の独立を具体化した制度

日本国憲法において司法権の独立が保障されていることは前述したとおりですが、具体的な規定をあげてみたいと思います。

  1. 最高裁判所の規則制定権(日本国憲法第77条)
  2. 最高裁判所による下級裁判所裁判官の指名権(日本国憲法第80条第1項)
  3. 裁判所による裁判官の懲戒(日本国憲法第78条後段)
  4. 最高裁判所を中心とする司法行政権(日本国憲法第77条)

また、裁判官の独立についての日本国憲法上の条文には以下のようなものが存在します。

  1. 罷免事由の限定
    1. 心身の故障のために職務を執ることができない場合(日本国憲法第78条前段)
    2. 弾劾裁判(日本国憲法第64条)
    3. 最高裁判所裁判官の国民審査(日本国憲法第79条第2項)
  2. 行政機関による懲戒の禁止(日本国憲法第78条後段)
  3. 報酬の保障(日本国憲法第79条第6項、第80条第2項)

最後に、日本における裁判官の任用方法について確認をしておきたいと思います。

まずは最高裁判所裁判官について述べます。最高裁判所裁判官は、識見が高く法律の素養がある40歳以上の者から任命されることになっています。識見が高く法律の素養があると判断されれば法曹資格を持たない者からも登用できますが、少なくとも10名は10年以上の裁判官経験又は20年以上の法律専門家(検察官、弁護士、簡易裁判所判事、大学法学部教授、大学法学部准教授)の経験を持つ者から登用しなければなりません(裁判所法第41条)。

最高裁判所裁判官(長官除く)になるプロセス

最高裁判所長官になるプロセス

最高裁判所裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に最高裁判所裁判官国民審査(国民審査)に付されます(日本国憲法第79条第2項)。

一方、下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命されます。任期は10年で、もちろん再任OKです(日本国憲法第80条第1項)。

スペインにおける司法権の独立を具体化した制度

「司法権の独立」を確保するために、スペインの憲法において司法総評議会 (Consejo General del Poder Judicial)」という機関を設けました。この機関は、裁判官その他の裁判官職員の人事行政を始めとして、司法権の運用全般に携わります (スペイン憲法第122条第2項)。詳しくは、「司法権に関する組織法 (Ley Orgánica del Poder Judicial)」の第107条から第110条に規定が置かれています。

司法総評議会 (Consejo General del Poder Judicial)は、「最高裁判所長官 (El Presidente del Tribunal Supremo)」が主宰し、最高裁判所長官によって任命された任期5年の委員20名でこれを構成します (スペイン憲法第122条第3項)。

ここでスペイン憲法第122条第3項の内容を表形式にしてまとめてみました。

委員対象者 内訳 指名権者
最高裁判所長官 (主宰) 1名 最高裁判所長官は、司法総評議会の推挙に基づき、国王が任命する。(スペイン憲法第123条第2項)
有能著名にして15年以上の職歴を有する弁護士その他の法律家 4名 下院総議員の5分の3以上の議決
4名 上院総議員の5分の3以上の議決
組織法が定める条件における全ての司法領域の裁判官 12名 組織法による

 

スペインにおける最高裁判所長官が司法総評議会の指名に基づいて国王がこれを任命されることは上の表でも示した通りですが、その他の裁判官の指名・任命について、表にまとめてみました。

裁判官の種類 要件
県裁判所長官 一定の要件を満たす法律家 (主に上級判事)の中から、司法総評議会が指名する。
自治州上級裁判所長官
全国管区裁判所長官
最高裁判所判事
上記以外の裁判官 司法総評議会が行う選考試験によって選抜・任官される。

 

くわしい裁判所の制度については後述します。

スペインには、かつて「異端裁判所」の存在があったり、20世紀に入ってからもフランコ時代において裁判所が体制側に組み込まれ、結果として基本的人権を侵害してきた歴史がありました。そこで、1978年憲法においては、裁判所は基本的人権を守るための機関であることが明記されました。

裁判所の種類及び三審制についての比較

日本における裁判所の種類及び三審制について

日本における裁判所の種類及び三審制について簡単に述べたいと思います。

まずは裁判所の種類を下の表で確認します。

日本における裁判所の種類

日本では最大で3回の裁判を受けることができます。これを三審制(さんしんせい)と言います。

日本における三審制フロー図

国民にとって3回裁判を受けることができるということは、それだけ慎重かつ公正な裁判を期待することができますよね。もしみなさんが人を殺していないにもかかわらず1回の裁判だけで「死刑」と決まったらどうでしょうか。納得できませんよね。何回か裁判所受けられるようにしておかないと、国民にとって納得のいく裁判が期待できなくなってしまいます。裁判は人生を変えてしまうものですから、国民にとっては裁判を受ける権利をきちんと大切にしてほしいと考えるのは当然ですよね。

さて、どの裁判所で訴えるのかは、民事裁判か刑事裁判か、あるいは訴額などによって異なりますが、だいたい次のような役割を持っています。

  • 地方裁判所…原則的に第一審裁判所(最初に審理される裁判所)としての役割を担っている。
  • 家庭裁判所…家庭にまつわる事件を取り扱う裁判所。
  • 簡易裁判所…地方裁判所で扱う事件よりも身近な事件を簡潔に解決する裁判所。

ここで出された判決に納得できない場合は、上の裁判所に「もう1回裁判をやってください」と訴えを起こすことができます。第一審裁判所の判決に納得できない場合に上の裁判所に訴えることを控訴といいます。

民事裁判において、控訴は具体的に
  • 地方裁判所が第一審裁判所であれば、控訴する裁判所は高等裁判所
  • 家庭裁判所が第一審裁判所であれば、控訴する裁判所は高等裁判所
  • 簡易裁判所が第一審裁判所であれば、控訴する裁判所は地方裁判所

に訴える、つまりすぐ上の裁判所に訴えることです。

また、刑事裁判において、控訴は具体的に

  • 地方裁判所が第一審裁判所であれば、控訴する裁判所は高等裁判所
  • 家庭裁判所が第一審裁判所であれば、控訴する裁判所は高等裁判所
  • 簡易裁判所が第一審裁判所であれば、控訴する裁判所は高等裁判所

に訴える、つまり高等裁判所に対して行う訴えのことです。

控訴して審理がされてまた納得できない場合、またさらに上の裁判所に訴えを起こすことができます。これが上告(じょうこく)です。ただし、上告できる事件は限られていますが、具体的にどのような事件なのかについてはここでは取り扱いません。上告裁判所は原則として最高裁判所(さいこうさいばんしょ)です。

スペインにおける裁判所の種類及び三審制について

原則

スペインの裁判制度は、スペイン憲法第117条第5項及びスペイン憲法第123条第1項に見られる「司法管轄統一の原則 (El Principio de Unidad Jurisdiccional)」が採用されています。すなわち、特定の人々や特殊の場合のみについて裁判権を行使する特別裁判所は原則として禁止されます (スペイン憲法第117条第6項)。例えば、フランコ時代には存在していた政治犯を審理する「公安裁判所 (Tribunal de orden Público)」は廃止されています。

<スペイン憲法第123条第1項>
El Tribunal Supremo, con jurisdicción en toda España, es el órgano jurisdiccional superior en todos los órdenes, salvo lo dispuesto en materia de garantías constitucionales.

スペイン全土に管轄権を有する最高裁判所は、憲法上の保障につき定められた場合を除き、すべての序列において最上級の裁判機関である。

スペイン最高裁判所

スペインにおいて、裁判は原則として「三審制」で行います。スペインの首都のマドリードにある「最高裁判所 (Tribunal Supremo)」を頂点に、その下に「県裁判所 (Audiencias Provinciales)」が置かれ、さらにその下に「第一審裁判所 (Juzgados de Primera Instancia e Instrucción)」などの裁判所が置かれています。

スペインの裁判制度の略図

この他にも全国的規模における事件や国外犯に関わる事件を審理する「全国管区裁判所 (Audiencia Nacional)」があり、首都マドリードに置かれています。全国管区裁判所の上訴裁判所は最高裁判所です。

また、各々の自治州内部において、かつ自治州憲章 (Estatuto de Autonomía)の定める範囲において控訴審を司る「自治州上級裁判所 (Tribunales Superiores de Justicia)」が置かれています(「司法権に関する組織法 (Ley Orgánica del Poder Judicial)」第70条から第79条)。自治州上級裁判所の上訴裁判所は最高裁判所ですが、特定の自治州公務員を被告としてその民事責任を問う場合(「司法権に関する組織法 (Ley Orgánica del Poder Judicial)」第73条)や自治州の範囲内において第1審裁判所の管轄を超える労働争議の場合(「司法権に関する組織法 (Ley Orgánica del Poder Judicial)」第75条)は、自治州上級裁判所が一審終結の裁判を行います。

国会議員や内閣の閣僚が刑事被告人となった場合の特例

最後に、スペインの裁判制度に関してもう1つ注目しておくべきことがあります。それは、国会議員や内閣の閣僚が刑事被告人となった場合の取り扱いです。まずはスペイン憲法第71条第3項を読んでみましょう。

<スペイン憲法第71条第3項>

En las causas contra Diputados y Senadores será competente la Sala de lo Penal del Tribunal Supremo.

下院議員および上院議員に対する訴訟は、最高裁判所の刑事法廷がこれを管轄するものとする。


<スペイン憲法第102条第1項>

La responsabilidad criminal del Presidente y los demás miembros del Gobierno será exigible, en su caso, ante la Sala de lo Penal del Tribunal Supremo.

内閣総理大臣およびその他の閣僚の刑事責任は、これを最高裁判所の刑事法廷に訴追するものとする。

「三審制」を原則とするスペインにおいて、法の平等に対するこのような例外的措置を憲法自らが認めているのは実に興味深いことです。黒田清彦先生のご指摘では、「国会議員や閣僚のような身分を持つ者が裁判の結果を不服として上訴に及ぶなどは体面上できることではないという体面感情 (pundonor)が背景にあるのではないか」と仰っています。日本において国会議員の刑事訴追についての規定で特例のようなものがあるとすれば、強いて言えば不逮捕特権の規定が挙げられると思います (日本国憲法第50条)。しかし、国会議員や閣僚であるという理由で「一審終結裁判」を行うという制度は日本には存在しません。

国民の司法参加

緒説 - 陪審制度と参審制度について

「陪審裁判 (jury)」とは、「司法制度において一般市民から選ばれた成人男女が陪審員として、”証拠認定”と被告の”有罪無罪を決める”制度」です。

下記の図は、陪審裁判と同様に、一般市民が実際に裁判を行う側として参加する「参審制度 (Schoffengericht)」の権能を比較した表です。

陪審裁判 参審裁判
一般市民から選ばれた成人男女が陪審員として、「証拠認定」と被告の「有罪無罪を決める」制度 一般市民から選ばれた成人男女が参審員として、職業裁判官とともに合議体を構成して裁判を行う制度
事実

認定

問題とされている事件が起こった際に、本当に「事実」が存在したかを「認定」する 陪審員のみが行う。 参審員+職業裁判官が共同で行う。
評決 「事実認定」を基に、「有罪 (Guilty)」か「無罪 (Not Guilty)」を判断 陪審員のみが行う。 参審員+職業裁判官が共同で行う。
量刑の判断 職業裁判官が行う。 参審員+職業裁判官が共同で行う。

 

イギリスで「陪審制度」が発展し、近代革命が欧州各地で起こった際に各国が「市民が裁判に参加できる」制度として「陪審制度」が導入され始めました。近代のイギリスの陪審制度は、絶対君主制のもとで陪審が王の命令に盲従する裁判官に抵抗して国民の利益を守るという機能を果たすことで定着しました。18世紀中半までそのイギリスの植民地であったアメリカでは、本国であるイギリスと植民地であるアメリカとの対立の中で陪審制度が植民者の利益を守る役割を果たしたことから、独立後も憲法上で権利として保障されるに至っています(合衆国憲法修正第6条及び第7条)。

一方、いわゆる「大陸法系」の国で一番最初に「陪審制度」の導入が図られたのがフランスでした。フランスでは、「フランス革命」をきっかけとして絶対王政下の裁判制度に対する反省から「陪審制度」が導入されました。また、ドイツは、1848年の「ドイツ3月革命 (「ヨーロッパ革命」の中でも重要な出来事の1つである)」を契機に、フランスにならって陪審制度がそれぞれ導入されました。

日本における国民の司法参加の沿革と現状

日本における国民の司法参加の沿革

ここからは日本における「国民の司法参加」の歴史と状況を概観していきましょう。

現在における日本では、「裁判員制度」という制度が平成21年(西暦2009年)に導入されていますが、実は先の大戦以前に「陪審制」が導入されていた事実を忘れてはいけません。この講座は法律学の基礎講座ですから、このあたりの事実関係は法学徒であれば明確にしておきたいところです。

日本は、大正12年(西暦1923年)に「陪審法 (大正12年4月18日法律第50号)」が成立し、昭和3年(西暦1928年)から施行されました。簡単に内容を見ると、陪審員の数は12名(陪審法第29条)で、アメリカ合衆国における陪審裁判の員数と同数です。裁判は刑事事件に限られ、具体的には次のように規定されています。

<陪審法第二条>

死刑又ハ無期ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ハ之ヲ陪審ノ評議ニ付ス


<陪審法第三条>

長期三年ヲ超ユル有期ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル事件ニシテ地方裁判所ノ管轄ニ属スルモノニ付被告人ノ請求アリタルトキハ之ヲ陪審ノ評議ニ付ス


<陪審法第四条>

左ニ掲クル罪ニ該ル事件ハ前二条ノ規定ニ拘ラス之ヲ陪審ノ評議ニ付セス
一  大審院ノ特別権限ニ属スル罪
二  刑法第二編第一章 乃至第四章 及第八章 ノ罪
三  治安維持法ノ罪
四  軍機保護法、陸軍刑法 又ハ海軍刑法 ノ罪其ノ他軍機ニ関シ犯シタル罪
五  法令ニ依リテ行フ公選ニ関シ犯シタル罪

しかし、昭和18年(西暦1943年)4月1日に戦争の激化に伴い「陪審法ノ停止ニ関スル法律」が施行され、法律の附則に「陪審法ハ今次ノ戦争終了後再施行スルモノトシ其ノ期日ハ各条ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム」と定められました。では「今次ノ戦争(大東亜戦争)」が終結している現在において「陪審法」はどのようになっているのかというと、実は「停止されたまま」になっているのです。言い換えれば、「陪審法」という法律は「裁判員制度」があるにも関わらず現存していることになるのです。

日本における国民の司法参加の現状 - 裁判員制度の導入

平成16年(西暦2004年)5月21日に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、平成21年(西暦2009年)5月21日から裁判員制度が始まりました。

裁判員制度が導入された趣旨については、裁判員法第1条でこのように書いてあります。

 (趣旨)
第一条 この法律は、国民の中から選任された裁判員裁判官と共に 刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の特則その他の必要な事項を定めるものとする。

青字で書かれた部分が裁判員制度を導入した理由だと思ってください。

次に、裁判員法第1条には刑事訴訟手続と書いてありますが、すべての刑事訴訟手続きについて裁判員裁判は開かれるのでしょうか。その答えが第2条に書いてあります。

 (対象事件及び合議体の構成)

第二条第1項
地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁に当たる罪に係る事件
二 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)

刑事手続といっても、裁判員裁判が行われるのは地方裁判所だということです。そして、対象となる事件についてはいろいろと書いてありますが条文を読んでいてもよく分かりませんね。そこで、刑法の条文を全て引っ張って裁判員法第2条第1号及び第2号にあてはまる犯罪をピックアップしてみました。

  • 外患援助
  • 現住建造物等放火
  • ガス漏出等及び同致死傷
  • 現住建造物等浸害
  • 往来妨害及び同致死傷
  • 汽車転覆等及び同致死
  • 往来危険による汽車転覆等
  • 浄水汚染等致死傷
  • 水道毒物等混入及び同致死
  • 通貨偽造及び行使等
  • 詔書偽造等
  • 強制わいせつ等致死傷
  • 特別公務員職権濫用等致死傷
  • 殺人
  • 傷害致死
  • 危険運転致死傷
  • 不同意堕胎致死傷
  • 遺棄等致死傷
  • 身代金目的略取等
  • 事後強盗
  • 昏酔強盗
  • 強盗致死傷
  • 強盗強姦及び同致死
  • 建造物等損壊及び同致死傷

裁判員裁判は、合議体によって行われます。その構成について条文では次のように言っています。必要な部分だけ抜粋してみます。

 (対象事件及び合議体の構成)
第二条第2項
合議体の裁判官の員数は三人裁判員の員数は六人とし、裁判官のうち一人を裁判長とする。

プロである裁判官3人と一般人である裁判員6名の合計9名で構成されています。

刑事裁判は、最終的には刑を決定し、どのような刑罰を科すのかを決定します。例えば、殺人罪について見てみましょう。

第199条
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

ある事件が起こった時、そもそも殺人罪が成立するのかどうかを判断し、殺人罪が成立すると判断された場合、「死刑又は5年以上若しくは無期懲役」の範囲内でどのような刑罰を科すのかを決定します。

裁判員裁判の場合、犯罪が成立するかどうか及びどのような刑罰を科すのかという判断は、裁判官と裁判員の合議体の過半数かつ裁判官及び裁判員のそれぞれ1人以上が賛成しなければなりません(裁判員法第67条1項)。なお、法令の解釈及び訴訟手続に関する判断については、プロでなければ分からない部分がありますから、裁判官の過半数の意見により決定されます(裁判員法第6条2項、第68条)。

以上の話をまとめます。

裁判員裁判のまとめ

裁判員に選任されて実際に裁判員になって裁判手続きに参加すると、守秘義務があります。裁判員の守秘義務をまとめた裁判員ネットのウェブサイトによると、守秘義務の対象は以下の表のとおりです。

裁判員裁判の守秘義務の範囲

これを守らないと、場合によっては6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

スペインにおける国民の司法参加の沿革と現状

スペインにおける国民の司法参加の沿革

スペインにおいて最初に「陪審制度」について憲法に明記されたのは、厳密に言えば「1808年憲法 (バイヨンヌ憲法)」であると言われています。しかし、通説的には「1869年憲法」で最初に謳われたとされています。この憲法を基にして、1872年にスペインで「陪審法」が制定されました。しかしこの「陪審法」は欠陥が甚だしく、運用に支障をきたしたため、1888年に「陪審法」が作り直され、通説的にはこの「陪審法」がスペインにおける最初の「陪審法」であると言われています。フランスの「陪審法」を参考に作られました。

興味深いのは、陪審員の数が12名であり、「評決 (veredicto)」の際に「有罪」と「無罪」の数が同数になった場合 (数が偶数なので可能性としてあり得る)、「無罪」という評決がなされたものとみなされる点です。この点において、アメリカにおいては12人という数は同じであるにも関わらず「全員一致」でなければ「有罪」「無罪」いずれの結論も「評決」されたとはみなされません。こういった違いはどういった理由を背景に起こっているのかは興味深いところではあります。

その後、陪審員の数が8名に減ったり、「陪審裁判」が扱える範囲を特定の犯罪を除外するなど、幾度の変遷があったが、1923年にプリモ・デ・リベラの独裁政治が始まって以来、「陪審制度」は1931年まで停止されました。

陪審制度が復活したのは「1931年憲法」においてでした。この時期の「陪審裁判」の制度として面白いのは、男女間の争いが起こった際には、陪審員を男女同数にするなどのユニークな制度が認められていたという点です。しかし、フランコ時代が始まると陪審制度は廃止されました。

1978年憲法下における陪審制度

現在のスペイン憲法が制定された後、「陪審裁判 (Tribunal del jurado)」を復活させるか否かは、国民を巻き込んだ議論となりました。

現行のスペイン憲法第125条には以下のような条文があります。

<スペイン憲法第125条>

Los ciudadanos podrán ejercer la acción popular y participar en la Administración de Justicia mediante la institución del Jurado, en la forma y con respecto a aquellos procesos penales que la ley determine, así como en los Tribunales consuetudinarios y tradicionales.

市民は、法律が定める形式において、かつ法律が定める刑事訴訟につき、民衆訴権を行使し、及び陪審の制度により司法に参加することができる。また、慣習上及び伝統上の裁判においても同様とする。

この条文を設けた意図として、次の2点が挙げられます。

  1. 「公」の仕事に市民が参加できる権利を保障すること
  2. 刑事被告人を不当な裁判から回避させることができること

結局、西暦1995年11月1日に「陪審組織法 (Ley Orgánica 5/1995, del Tribunal del Jurado)」が制定されました。法律の施行には半年間の猶予期間があり、実質的に法律が運用されたのは西暦1996年でした。

「陪審組織法 (Ley Orgánica 5/1995, del Tribunal del Jurado)」では、「陪審裁判」で取り扱える事件を次のように規定しています。

  1. 人命に対する罪
  2. 公務員が公務上犯した罪
  3. 名誉に対する罪
  4. 救助義務懈怠の罪
  5. プライバシーおよび住居に対する罪
  6. 自由に対する罪
  7. 環境に対する罪

上記は事実認定が分かりやすそうなものに絞っている点です。但し、この範囲を拡大できる可能性を法律では保障しています。

スペインにおける陪審員の員数は9名です。また、この9名とは別に予備2名が抽選により選ばれます。陪審裁判は、県裁判所 (第2審)で行なわれる。

スペインにおいて、「事実認定」は被告人にとって有利な状況を認定する場合 (被告人は事件現場にいなかったなど)は5人以上(過半数)の賛成を以って認定されるのに対し、被告人にとって不利な状況を認定する場合 (被告人は事件現場にいたなど)は7人以上の賛成を以って認定されます。さらに言うと、問題とされている事件の中で起こった「事実」の1つ1つについて「事実認定」を行っていきます。被告人に対して権利保障をしようとしている方向性が見えてくるように思います。

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「評決」は、被告人にとって有利な状況を認定する場合 (無罪)は5人以上(過半数)の賛成を以って認定されるのに対し、被告人にとって不利な状況を認定する場合 (有罪)は7人以上の賛成がなければなりません。

まとめ

 

スペイン 日本
市民の司法参加の方法 陪審制度 裁判員制度
評決
(事実認定)
陪審員が行う 裁判員が行う
判決 しない
(陪審員の評決をもとに
裁判官が行う)
する
(職業裁判官とともに判決も出す)
対象となる裁判の種類 刑事裁判のみ 刑事裁判のみ
員数 陪審員9名 裁判員6名と職業裁判官3名
対象となる事件
  1. 人命に対する罪
  2. 公務員が公務上犯した罪
  3. 名誉に対する罪
  4. 救助義務懈怠の罪
  5. プライバシーおよび住居に対する罪
  6. 自由に対する罪
  7. 環境に対する罪
  1. 死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に関する事件
  2. 法定合議事件(法律上合議体で裁判することが必要とされている重大事件)であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に関するもの
制度が適用される裁判所 県裁判所 (Audiencias Provinciales)で実施される裁判 地方裁判所で行われる裁判

 

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