第11回 スペインと日本の違憲審査の方法はどこが違うのか?

最終更新日: 平成29年(西暦2017年)7月28日

はじめに

前回は、日本の制度と比較しながら司法権について学習しました。司法権が基本的人権を担保するための権力として存在するためには、他の政治的権力(立法権や行政権)から独立している必要があり、この点については日本国憲法の持つ価値観とスペイン憲法の持つ価値観は同様のものであるということを学習しました。

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ところで、こういった憲法の価値観を国内で機能させるためには、憲法の最高法規性が担保されていなくてはなりません。たとえ国民から選出された国会議員から構成される国会において作られた法律であっても、その内容がスペイン憲法にも謳われている「基本的人権の尊重」の概念に反したものであったとすれば、それは国民にとって望ましいことではありません。

憲法は自らの価値観を守るため、専門的に言えば、憲法を頂点にした法秩序を維持するための装置として「違憲審査制度」と呼ばれる制度を設けています。すなわち、憲法の価値観に反した法を審査する制度のことを言います。しかしながら、「違憲審査制度」は国によってその運用方法が大きく異なります。

結論的なことを言ってしまうと、日本とスペインとでは違憲審査のやり方が大きく異なります。

  1. 憲法秩序を守るために設けられている「違憲審査制度」が、各国においてどのような違いがあるのかを概観し、スペインの「違憲審査制度」の運用方法についての特徴を捉える。
  2. スペインにおける「憲法裁判所 (Tribunal Constitucional)」の権能について概観する。

スペインでは「憲法裁判所 (Tribunal Constitucional)」という国家機関で違憲審査が行われますが、その「憲法裁判所 (Tribunal Constitucional)」とはどのような機関なのかについて解説をしたいと思います。

違憲審査制度概説

違憲審査の方法

近代憲法において、「違憲審査制度」は、大きく2つの方法で運用されていると言われています。1つは、具体的な事件の解決に付随して争われている論点(法律)が憲法に違反するか否かを検討する「付随的審査制」と呼ばれる方法がある。もう1つは、具体的な事件の解決に関係なく、条約や法令や条例といったものが憲法に違反するかどうかを審査する「抽象的審査制」がある。

違憲審査の方法 概説 採用されている国
付随的審査制 具体的な事件の解決に付随して争われている論点(法律)が憲法に違反するか否かを検討する。 日本、アメリカなど
主として、「英米法」体系に多い。(日本は「大陸法」体系の国であるが…)
抽象的審査制 具体的な事件の解決に関係なく、条約や法令や条例といったものが憲法に違反するかどうかを審査する ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど
主として、「大陸法」体系の国に多い。

違憲審査の歴史

歴史的に見て「違憲審査制度」が確立したといわれているのが、1803年のアメリカで起きたかの有名な「マーベリーvsマディソン事件」であり、それ以来、判例法においてアメリカでは認められてきました。

[判例] Marbury v. Madison, 5 U.S. (1 Cranch) 137 (1803)

1800年の大統領選挙で、アンチ=フェデラリスト(強力な連邦国家よりも州の権限を守り重視すべきであると考える人々のこと)のトーマス・ジェファーソン (Thomas Jefferson)が、フェデラリスト(強力な連邦国家を作るべきであると考える人々のこと)で現大統領のジョン・アダムス (John Adams)を破った。ジェファーソンが大統領に就任するのは1801年3月4日のことであった。また、連邦議会選挙も行なわれ、アンチ=フェデラリストがフェデラリストを破った。

1801年1月20日に、アダムスは、現在国務長官であったジョン・マーシャル (John Marshall)を連邦最高裁判所長官に指名した。マーシャルは、1801年2月4日に最高裁判所長官に就任し、3月3日までは国務長官の職と兼務した。

1801年2月に、連邦議会は、新しい議会が始まる前に、司法部(裁判所)をこれまで通りフェデラリストたちの支配下に置くために、巡回裁判所裁判官の職とWashington D.C.に治安判事職を新設する法律を成立させた。そして、フェデラリストが多数派の連邦上院議会にて、これらの職に指名されたフェデラリストの裁判官の任命を承認し、大統領はその辞令に署名し、国務長官 (ジョン・マーシャル)はそれらに国璽を押印したが、指名された者の中に3月3日の辞令の交付を受けなかった者が現れた。翌日の3月4日になって、ジェファーソンが大統領に就任すると、ジェファーソンは新国務長官であったジェームズ・マディソン (James Madison)にそれらの辞令を交付しないように命じた。治安判事職に指名されたが辞令の交付を受けなかったウィリアム・マーベリー (William Marbury)は、マディソン国務長官に対して辞令の交付を要求する職務執行令状の発給を求めて最高裁判所に提訴した事件である。

これに対して、最高裁判所長官であるマーシャルは、自らの権限である職務執行令状を発給する権限を否定した。その理由は、「原告は一般論としては辞令交付を要求する権利を有するが、事件の訴えは1789 年に制定された「裁判所法 (Judiciary Act)」の規定に基づいて提起されたものであり、その裁判所法の規定が合衆国憲法に違反し、かつ無効であるので裁判所は職執行令状を発行する権利を有しない」ためである。もう少し具体的に説明すると、1789年に制定された「裁判所法 (Judiciary Act)」には最高裁判所に職務執行令状を発給する権限を与えているが、合衆国憲法第3編第2節第2項には「大使その他の外交使節及び領事に関係する事件並びに州が当事者である事件のすべてについて、最高裁判所は第一審管轄権を有する…」とあるが、第一審裁判所として職務執行令状を発給することはここに含まれていないため、裁判所法は合衆国憲法に違反するものであるという論理である。

さらに、マーシャルは「成文憲法を作ったすべての人々が基本的で至上の国家法を作っていると考えていたことは確かであり、したがって、そのような統治の理論は、憲法に反する立法部の法律は無効であるということでなければならない」と判示しており、「何が法であるかを述べるのは、断固として司法部門の権限であり義務である」とし、裁判所が、法律が憲法に反すると考えた場合には、それを無効にしうるという司法審査権の教義を打ち出し、裁判所法(連邦法)を無効とした判決である。

この事件の内容や判決の内容については政治的な側面や思惑から様々な批判がありますが、連邦最高裁判所の違憲審査権が確立された極めて重要な判例であるとされています。

他方、ドイツやフランスなどの「大陸法」諸国では、「裁判所において違憲審査を行うのは、民主主義および権力分立制度に違背するものである」と考えられてきたため、裁判所においては違憲審査制度が確立しませんでした。

[参考: 大陸法と英米法]
大陸法 英米法
紛争解決の
出発点
法律(条文)からの出発 事実からの出発
法の適用
方法
事件に条文が適合するか判断し、法律を適用する。 過去に似た事件を探し出し、同じ内容のものであれば、過去に出た法理を適用する。異なれば、新たに法理を創造する。
裁判官の
立場
法律の適用者 法の創造者
採用されて
いる国
フランス・ドイツ・スペイン・日本 など イングランド・ウェールズ・アメリカ合衆国・オーストラリアなど

権力分立の考え方と違憲審査制度

ここからは、各国の権力分立についての考え方の違いを比較したいと思う。以下、法文化を考える時に最もコントラストの出やすい、イギリス、アメリカ合衆国および第2次世界大戦前の大陸法諸国 (特にドイツやフランス)の3つの国の違いを概観したいと思います。

イギリス
アメリカ
第2次世界大戦前の
大陸法諸国
裁判所の地位
法の発見者
法律適合性の判断権者
法律適合性
憲法適合性の判断権者
法律適合性の判断権者
裁判所が
判断する対象
行政が法に従っているか
行政が法に従っているか
国会が憲法に従っているか
行政が憲法に従っているか
行政権については
「行政裁判所」で判断
(「行政裁判所」=行政機関)
議会と
裁判所
への
信頼度
議会
高い 
低い
高い
裁判所 高い
高い
低い
理由 マグナカルタ以来、人権制度を保障してきたのは、法律を作ってきた議会と裁判所であったため。 イギリス議会の圧制のために立ち上がって独立したという歴史があるから+判例という形で法規範を作るため。 市民革命以前の裁判所は国王と結託して人権侵害の急先鋒を担っていたため。
立憲主義の
確立過程
との関係
議会中心主義
徹底した権力分立主義
議会中心主義
法に対する
考え方
法の支配
法の支配
形式的法治主義

 

イギリスでは議会と裁判所への信頼度が高い傾向にあります。議会が誤った法律を作るはずがないという議会への強い信頼と裁判所が法規範を作っており裁判所への信頼が高いからです。イギリスの司法機関は、歴史的に見ても、王権の下にはあったものの、法律家は過去の似たような事例を探し出して法を創造していたため、過去の事例をきちんと分かっていない法律家以外の者たちにとって法律実務を行うことは難しいため、イギリスの司法機関は相当な独立性と信頼を持っていました。そういうことから、わざわざ制定した「法」について、憲法(イギリスは憲法典はないがそれにあたるものは存在する)や基本的人権の尊重に立脚した「法の支配」の考え方に反した法律は作られないであろうという意識が働き、違憲審査という考え方が法体系の中には存在しません。

それに対してフランスやドイツやスペインといった大陸法諸国の「国王」は、特に17世紀から18世紀の「絶対王政」の時代には司法部は完全に王権の下に組み込まれてしまい、司法権は国王の意向に左右されていました。したがって、歴史的にも有名な「フランス革命」などで王政が倒れて人民による新しい政治が始まろうとした時に、司法部は「王やら貴族やらの仲間で胡散臭い」と見られ、法律家による創造性を認めてしまったら革命に成功した側の利益を「屁理屈」によって奪われかねないと考えたため、できるだけ司法部の力を押さえて国民から選出された議員から構成される「議会」で作る法律に司法部が拘束されることを望んだという経緯がありました。

アメリカの三権分立制度

アメリカはイギリス議会が作った悪法(悪政)が発端となって独立したいう経緯があるため、議会に対する信頼度は高くありませんでした。そこで、司法機関が立法機関に対するチェックを行うという発想が生まれやすくなります。こうして、議会と行政府と裁判所が全く対等な立場をとり、徹底した三権分立の構造が次第に生まれました。

第2次世界大戦前のドイツやフランスにおいては、前述したとおり、市民革命前の議会が絶対王政を助けて人権侵害の急先鋒に立っていたということもあり、裁判所への信頼は低いものでした。これは、国民の代表者によって構成される議会が法律を作ったのだから、それは正しいものだろうという推定が働いた「形式的法治主義」の考え方を反映したものです。

しかしこういった考え方は、最終的にはナチズムを生むことにつながってしまいました。つまり、「形式的法治主義」では「悪法もまた法なり」という考えにつながり、かえって国民の人権を侵害する結果になってしまいました。

戦後は、ナチスなどの「法律による基本的人権の侵害」を防止するために、まず基本的人権を保障する憲法が最高法規である(法律よりもエライ!)ことを宣言した上で、国会での憲法改正の発議や改正するための定足数や議決数を他の一般法よりも厳しくしたりしました。また、憲法が一番エライのだから、その価値観に反する法律はおかしいと言える制度も整える必要性が生じました。それが今回の「違憲審査制度」の確立です。ところが、通常の裁判所もまた先に見たように基本的人権を害したことのある歴史を持っているため、通常の司法裁判所とは違った別組織を作って、憲法上、原則禁止の特別裁判所を例外的に認めた「憲法裁判所」(フランスでは「憲法院」と訳される)を作っていったという歴史を持っています。

スペインも裁判所が自ら基本的人権を侵害してきたという歴史を持つ国の一つであるし、スペインの近代憲法の歴史や条文を見ても、フランスやドイツなどの大陸法諸国の影響を受けて憲法が制定されてきたという経緯があります。スペインが抽象的違憲審査制度を採用したのは、こうした法文化的な背景が存在するのです。

日本における違憲審査のやり方

まずは日本国憲法第81条を見ましょう。

<日本国憲法第81条>
最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

日本国憲法第81条にそのまま載っている通りです。また、高等裁判所以下の下級裁判所においても違憲審査権があるとされています(最大判昭和25年2月1日)。

違憲審査の対象は、「一切の法律、命令、規則又は処分」という日本国憲法第81条に定められているとおりなのですが、「条約」という文言が含まていません。そこで、「条約」が違憲審査の対象になるか否かが学説上争われています。この点、「条約は国内で法規範としての効力を有するため、条約は憲法秩序にも包含されるため(憲法優位説)、条約に対しても違憲審査の対象となる」と解するのが通説・判例です(最大判昭和34年12月16日・砂川事件)。スペインにおいては、国際条約の合憲性審査という興味深い制度が憲法上存在していますので、後ほどくわしく述べたいと思います。

では、最高裁判所及び下級裁判所は何の具体的な争いもなく、「○○法」は違憲であるということを判示することはできるのでしょうか。

この点について争われたのが、[警察予備隊違憲訴訟(最大判昭和27年10月8日)]です。かいつまんでポイントを説明しましょう。

  • わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。
  • 我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。
  • わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。

憲法違反だと言うためには具体的な争訟が必要だということです。くわしく言えば、「具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であってかつそれが法律を適用することによって終局的に解決することができる」時に初めて違憲審査ができるとされています。換言すれば、日本の最高裁判所は付随的審査をもって違憲審査を行っていると言えます。

違憲審査の効力は当該事件に限られますが、国会は違憲とされた法律を速やかに改廃し、政治はその執行を控え、検察はその法律に基づく起訴を行なわないなどの措置を採ることを憲法は期待していると見るべきだとする「法律委任説」が通説です。

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スペインにおける憲法裁判所について

憲法裁判所の性格

スペインにおける違憲審査の方法は、ドイツでも採用されている「抽象的審査制度」を採用しており、憲法裁判所が違憲審査を行っています。憲法裁判所の規定はスペイン憲法に第159条から第165条の全8か条にわたって規定が置かれています。そして、憲法裁判所の細かい規定は、「憲法裁判所組織法 (Ley Orgánica del Tribunal Constitucional)」で別に規定を設けています (スペイン憲法第165条)。(「組織法 (Ley Orgánica)」については国会の権能の回で学習しました

スペインの憲法裁判所

筆者がスペインの憲法裁判所を訪問した時に、機関弁護士 (letrado)から憲法裁判所についての解説を受けた時、

「憲法裁判所は、民主法治国家にとって必ずしも必要なものではない。しかし、人権が本来あるべきものであるために、ドイツに倣って作られたものである。これは司法機関として捉えるよりも、独立した国家機関として考えた方がよい。」

とおっしゃっていました。

なるほど、この機関弁護士が述べられていたように、憲法裁判所は民主法治国家にとって必ずしも必要なものではありません。それはアメリカ合衆国や日本の例を見ても明らかです。そして、もう1つのポイントとしてあげておきたいのは、「司法機関として捉えるよりも、独立した国家機関として考えた方がよい」という部分です。後で解説しますが、スペインにおける憲法裁判所の裁判官は複数の国家機関から指名されます。スペインの憲法裁判所は憲法秩序を守るための機関であると解するため、単なる司法機関として捉えるよりも憲法秩序を守るための機関として捉えた方が本質を突いている、ということを機関弁護士は言いたかったのであろうと思います。いずれにせよ、スペインにおける憲法裁判所の存在意義というのはこのような意味を持っていると考えられます。

憲法裁判所の裁判官

憲法裁の裁判官は12名です。このうち、下院 (Congreso de los diputados)と上院 (Senado)から4名ずつの指名、内閣 (Gobierno)から2名、司法総評議会 (Consejo General del Poder Judicial)という全国の裁判官の人事等を扱う司法行政機関から2名の指名で、15年以上の職歴を有する有能な法律家(司法裁判所の裁判官 (Magistrado)、検察官 (Fiscal)、大学教授、公務員及び弁護士 (Abogado))の中から選ばれ、国王が任命します。また、憲法裁判所組織法第18条において、裁判官はスペイン人でなければならないと定められています。任期は9年で、3年毎に4人が選任されます。憲法裁判所の裁判官は、政治上または行政上の地位、政党や労働組合の指導的立場、司法及び検察などの兼職を禁止しています(スペイン憲法第159条)。

以下に示した表は、2017年3月10日現在の憲法裁判所の裁判官です。憲法裁判所長官は、憲法裁判所裁判官の全体会議の推挙に基づき、3年の任期で、国王がその構成員の中より任命します(スペイン憲法第160条)。裁判官の名前を全員覚えていただきたいわけではなく、スペイン憲法第159条の規定が具体的にどのように運用されているのかを確かめていただこうという趣旨で名簿を掲載しています。

憲法裁判所裁判官
裁判官
任期開始日
指名された
機関
Juan José González Rivas 
2012/07/20
(長官は2017/03/22)
下院
Encarnación Roca Trías
 2012/07/20
(副長官は2017/03/22)
下院
Andrés Ollero Tassara 2012/07/20 下院
 Fernando Valdés Dal-Ré 2012/07/20 下院
Santiago Martínez-Vares García 2013/06/12 司法総評議会
 Juan Antonio Xiol Ríos 2013/06/12 司法総評議会
Pedro José González- Trevijano Sánchez 2013/06/12 内閣
 Antonio Narváez Rodríguez 2014/07/08 内閣
 Alfredo Montoya Melgar 2017/03/10 上院
Ricardo Enríquez Sancho 2017/03/10 上院
Cándido Conde-Pumpido Tourón 2017/03/10 上院
María Luisa Balaguer Callejón 2017/03/10 上院

 

ここからは余談ですが、2004年6月15日にマリア・エミーリャ・カサス・バアモンデ女史(50)が、スペイン憲法裁判所の史上初の女性裁判所長官です。彼女は労働法の教授資格を持った大学教授です。

憲法裁判所の権能

緒説

スペインの憲法裁判所は、スペイン全土に管轄権があります。これは、各州に憲法裁判所が存在するドイツとは異なり、「集中管理型 (jurisdicción concentrada)」です(憲法裁判所組織法第1条第2項)。そして、スペインの憲法裁判所がどのような権能を有しているのかの代表例をあげてみたいと思います。

  1. 法律、判例及び国際条約の違憲審査 (スペイン憲法第161条第1項a号)
  2. 人権保障訴訟 (スペイン憲法第161条第1項b号、憲法裁判所組織法第2条第1項b号)
  3. 国及び自治州の権限抵触の解決 (スペイン憲法第161条第1項c号)
  4. 自治州法規・決議の効力停止 (スペイン憲法第161条第2項)
  5. その他、憲法又は組織法が権限を付与する事項 (スペイン憲法第161条第1項d号)
  6. 国際条約の合憲性の宣言 (憲法第95条第2項、 憲法裁判所組織法第2条第1項e号)
  7. 憲法第161条第2項に定める異議申立て(憲法裁判所組織法第2条第1項f号)
  8. 憲法裁判所裁判官の任命が憲法及び憲法裁判所組織法の定める要件に合致しているかど
    うかの検証 (同組織法第2条第1項g号)

以下は、上に示した項目のうちの一部について、簡単にコメントを加えたいと思います。

なお、スペイン憲法裁判所について言及した論文が、日本国憲法の改正の際に「憲法裁判所」を設置すべきか否かという論点が議論されているせいか、その数は増加傾向にあると勝手ながらに感じます。[亀野邁夫「スペインの憲法裁判所」『レファレンス 平成15年8月号』]や以下に示す書籍にも言及されています。

法律等に対する「違憲の訴え (recurso de inconstitucionalidad)」及び「違憲審査 (cuestión de inconstitucionalidad)」に関する違憲性

違憲の訴え (recurso de inconstitucional)について

「違憲の訴え」による違憲審査の対象となる法令については「憲法裁判所組織法 (Ley Orgánica del Tribunal Constitucional)」の第27条第2項に、次のとおり掲げられています(憲法裁判所組織法第27条第2項)。

  1. 自治州憲章及びその他の組織法
  2. その他の法律及び法律の効力を有する国の規範及び行為
  3. 国際条約
  4. 国会 (Cortes Generales) における上下両院 (Camaras) それぞれの議院規則
  5. 自治州の法律、 法律の効力を有する規範及び行為
  6. 自治州の立法議会 (Asambleas Legislativas)の規則

訴えを起こすことができるのは、内閣総理大臣、護民官、上下院各議員50名以上、自治州政府及び自治州議会のみであり、一般の国民が訴えることはできません。

違憲審査 (cuestión de inconstitucionalidad)について

スペインの憲法裁判所では、具体的な裁判に付随して行われる「違憲審査 (cuestión de inconstitucionalidad)」も行われます。それは、通常の司法裁判所のプロセスにおいて裁判官もしくは裁判所の職権または当事者の申立てによりそこで適用される法律に憲法違反の疑いがあると判断される場合に憲法裁判所に移送する方法により行われます。

人権保障訴訟 (アンパーロ訴訟)

スペイン憲法裁判所では「人権保障(アンパーロ)訴訟 (憲法第161条第1項b号)」も取り扱います。正当な利益を主張する全ての自然人、法人、護民官(オンブズマン)及び検察官が提訴資格を有します。対象となる権利は、スペイン憲法第14条から第29条にかけて認められている権利および自由ならびに第30条で認められている良心的兵役拒否の権利に限られ、その他の権利は対象とはなりません。

余談になりますが、スペイン憲法第14条から第29条にかけて規定のある人権を、「衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団報告書」(平成26年10月提出)を参考に列挙してみます。

  • 14 条(法の下の平等)
  • 15 条(生命権、拷問の禁止、死刑の廃止)
  • 16 条(思想および宗教の自由、国教の禁止)
  • 17 条(法定手続の保障、逮捕に対する保障)
  • 18 条(名誉、プライバシー、肖像権、住居の不可侵、通信の秘密)
  • 19 条(居住・移転の自由、出入国の自由)
  • 20 条(表現の自由、知る権利、事前検閲の禁止)
  • 21 条(集会の自由)
  • 22 条(結社の自由)
  • 23 条(参政権)
  • 24 条(裁判を受ける権利、不利益な供述の強要禁止)
  • 25 条(遡及処罰の禁止、被拘禁者の権利)
  • 26 条(名誉裁判所の禁止)
  • 27 条(教育を受ける権利、教育の自由、教育監督権、大学の自治)
  • 28 条(労働組合の自由、ストライキ権)
  • 29 条(請願権)
  • 30条(良心的兵役拒否)

「憲法裁判所組織法 (Ley Orgánica del Tribunal Constitucional)」においては、人権保障訴訟についての対象がさらに制限されています。憲法第14条から第29条にかけて認められている権利および自由ならびに第30条で認められている良心的兵役拒否の権利についての事件であれば、必ず訴えが提起できるわけではないということです。

  1. 国の公権力、自治州及びその他の地方的、法人的若しくは制度的性格を有する公的機関及びその公務員若しくは職員が行った処分、法的行為又は単なる暴力行為(憲法裁判所組織法第41条第2項)によってそれらの権利や自由が侵害された場合であること
  2. 事前に「適切な司法的手段が尽くされている」こと

といった要件が満たされていなくてはなりません。特に2番目のものについて言及すると、憲法裁判所に訴えを提起するには、まず通常裁判所における裁判手続を経ることが必要であるということです。通常の裁判において申立てどおりの保護が与えられなかった場合に限り、いわば最後の手段として、憲法裁判所への提訴が認められます。

この訴訟は、通常の司法手続きの人権保障についての訴訟と区別して「アンパーロ訴訟 (recurso de amparo constitucional)」と呼ばれることが多いです。

国と自治州の権限抵触の解決 (conflictos de competencia)

スペインの憲法裁判所は、「国及び自治州の権限抵触の解決 (憲法第161条第1項c号)」を行います。日本法における行政法分野の区分けで言う「機関訴訟」のようなものです。

スペインは現在17個の自治州 (Comunidad Autónoma)と2つの自治都市に分かれています。スペインの国会の選挙のところでも少しだけ説明しましたし、次回にさらにくわしく解説します。

スペインにおける自治州の地図

筆者が憲法裁判所を直接視察した時に驚いたのは、憲法裁判所の大法廷を見学していた時に大法廷の壁面にはスペイン国旗が掲げられているだけでなく、17の自治州の自治州旗が掲げられていたことです。憲法秩序を守る機関で最も重要な法廷の壁に自治州旗が掲げられていたのです。こういったものを見ると、1978年憲法で掲げられている理念の中でも「地方自治の保障」というのはかなり重要な地位を占めているのではないかということを思わずにいられませんでした。

 

スペイン憲法では、国の専管事項と自治州の権限について細かく列挙されています(スペイン憲法第148条、第149条)が、実際には自治州をめぐる管轄争いは少なくありません。一般的な傾向として、近年は国にあった権限を地方に委譲する傾向が見られるようです。

自治州法規・決議の効力停止

次の「自治州法規・決議の効力停止」は、自治州が行う行政が憲法に合致していない場合、内閣が憲法裁判所に異議申立をすることができ、その期間、当該行政行為は一時的にストップしなければなりません。

一方の「国の権限抵触」の問題は、EU法とスペイン法の「抵触」が問題となる場合のことを言います。

国際条約の合憲性の宣言

制度の概要

まずは、国際条約に関するスペイン憲法第95条の規定を見てみましょう。

<スペイン憲法第95条>

  1. La celebración de un tratado internacional que contenga estipulaciones contrarias a la Constitución exigirá la previa revisión constitucional.
  2. El Gobierno o cualquiera de las Cámaras puede requerir al Tribunal Constitucional para que declare si existe o no esa contradicción.

  1. 憲法違反の条項を有する国際条約の締結には、事前に憲法の見直しを要するものとする。
  2. 内閣またはいずれかの議院は、憲法裁判所に対し、前項の違反の有無を宣告すべきことを請求することができる。

スペイン憲法第95条第2項を受けて、憲法裁判所はどのような手続きを踏むことになるのでしょうか。

これについて書かれている憲法裁判所組織法第78条の規定を噛み砕いて解説をします。国際条約と憲法との間に矛盾が存在しないかの確認を内閣又はいずれかの議院は要求することができ、これを受理した憲法裁判所は受理して1か月以内の期間に要求した機関に対して出頭を命じて意見を述べさせ、さらにその1か月以内に憲法裁判所が判断するという手続きが取られます。

この手続きによって国際条約が憲法に違反していると憲法裁判所が判断したため、憲法改正の手続きを行ったという実例をお示しすることにしましょう。

マーストリヒト条約の批准に伴う被選挙権についての憲法改正

スペインは1978年に現行憲法が施行されてから後に、フランコ体制時のヨーロッパ内での低地位からの脱却を図り、1986年には隣国のポルトガルと共にECに加盟しました。その後、1992年2月に調印された「マーストリヒト条約 (Tratado De Maastricht)」で、ECの経済・政治統合の推進を目的として、欧州連合(EU)の創設、経済・通貨同盟の設定、共通の外交・安全保障政策、欧州市民権などが規定されました。しかし、条約の批准の際に、スペインで「憲法問題」が発生しました。それは、外国人の「地方参政権の問題」です。

「参政権」については、スペイン憲法第23条で次のように書かれています。

<スペイン憲法第23条>

Los ciudadanos tienen el derecho a participar en los asuntos públicos, directamente o por medio de representantes, libremente elegidos en elecciones periódicas por sufragio universal.


市民は、直接に又は定期的な普通選挙において自由に選出された代表者を通じて、公事に参加する権利を有する。

実際に参政権が行使できるのは原則としてスペイン人です。例外として、条約によって外国でスペイン人と同じ程度で選挙権を認めている国の人に限って、外国人の地方選挙における選挙権を認めています。一応憲法の条文を確認しましょう。

<スペイン憲法第13条第2項>

Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo en las elecciones municipales.


スペイン人のみが第23条 [筆者註: 参政権]に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権につき定め得るところを除く。

ところが、「マーストリヒト条約 (Tratado De Maastricht)」の調印により、EUに加盟している国の市民である「欧州市民 (Ciudadano Europeo)」に対して、被選挙権も含む地方参政権を付与することになったのです憲法の解釈上、「欧州市民」に対して「選挙権」を認めることについては異論はないはずです。スペイン憲法第13条第2項但書条文そのままです。ところが、被選挙権については憲法上規定がなく(上の条文の下線部分を参照!)、「マーストリヒト条約」と「憲法」の規定が抵触してしまったのではないかということです。

スペイン政府は、スペイン憲法第95条の規定に則り、マーストリヒト条約に違憲性があるか否かの判断を憲法裁判所に仰ぎました。

これに対し、憲法裁判所は次のように判示しました。

  1. マーストリヒト条約は、相互主義に基づいた地方参政権における選挙権しか認めていない憲法第13条第2項に違反する。
  2. マーストリヒト条約に合憲性を持たせるには、憲法の改正を行うべきである。

これを受けて、政府はスペイン憲法第167条の規定(各議院の5分の3以上の可決が原則)に従って、相互主義に留意した地方選挙において外国人にも被選挙権を認める憲法改正案を提出しました。

スペイン憲法167条(憲法改正)

1992年6月22日に下院本会議で、6月30日に上院本会議で可決され、憲法第13条第2項が以下のように修正されました。

改正前 改正後
日本語 スペイン人のみが第23条に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権につき定め得るところを除く スペイン人のみが第23条に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権及び被選挙権につき定め得るところを除く
スペイン語 Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo en las elecciones municipales. Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo y pasivo en las elecciones municipales.

 

原文ではわずか2文字の改正でしたが、憲法裁判所が機能して実際に憲法改正が行われました。この後、「選挙制度一般に関する組織法 (LEY ORGANICA 5/1985, de 19 de junio, del Régimen Electoral General)」などの関連法も改正されました。

なお、条約の合憲性審査については、[野口健格「スペイン憲法裁判所における条約の合憲性審査」『法学政治学論究』Vol.96(2013.3)1-33頁]に深くくわしい記述がされています。

話はそれますが、1978年スペイン憲法の改正は2回行われており、上のマーストリヒト条約批准の際の改正が1回目で、2回目は2011年に「財政健全化条項」を盛り込んだ改正でしたが、憲法裁判所を使った手続きではありません。くわしくは、[三輪和宏「2011 年におけるスペイン憲法改正及び政党間合意の成立 ―財政健全化に向けた欧州連合加盟国の一つの試み―」『レファレンス 平成24年5月号』]をご覧ください。

提訴権者のまとめ

ここで、スペインの憲法裁判所について、機能及び提訴資格者について簡単にまとめておきたいと思います。

提訴資格者 条文
違憲審査 内閣総理大臣 憲法第162条第1項a号
護民官
上下院各議員50名以上
自治州政府
自治州議会
人権保障訴訟 正当な利益を主張する全ての
自然人、法人
憲法第162条第1項b号
護民官
検察官
但し、憲法裁判所組織法によるさらなる制限あり。
国及び自治州の
権限抵触解決
自治州の最高行政責任者 憲法裁判所組織法第63条
(憲法第162条第2項を受けて)
自治州法規・決議の
効力停止
内閣 憲法裁判所組織法第62条
(憲法第162条第2項を受けて)

 

まとめ

最後に、スペインと日本の違憲立法審査の差異について表を使って確認しておきましょう。

日本 スペイン
違憲審査の有無
違憲審査の主体 最高裁判所
下級裁判所(解釈による)
憲法裁判所
違憲審査と争訟の
関係
具体的争訟が前提
「付随的審査」
具体的争訟と関係なし
「抽象的審査」
違憲審査
の対象
法律 なる なる
判例 ならない (判例) なる (判例にも法源性ありとされた)
国際条約 なる (判例・通説) なる(但し事前に行われる)
違憲審査の効果 当該事件に限られる(判例・通説) 官報に公示された翌日

 

日本とスペインとでは、違憲審査の方法は大きく異なります。外国の法律を学ぶ際は、単に外国の法律制度や趣旨などの知識を吸収するのではなく、日本法と比較して「どのように違うのか、何故違うのか」という視点に立って学んだ方が、彼国と自国の法制度の双方の有機的理解に結びつきます。

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スペイン法のこの講義を通して、比較法学習の醍醐味を感じていただけると幸いです。

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