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[講義録]
スペインにおける違憲審査制度


 

Produced & Written by Kashiroman


目次


 
  1. はじめに
  2. 違憲立法審査権の根拠
    1. 違憲立法審査権の歴史と国際比較
    2. 違憲審査の根拠
    3. 違憲審査の方法
  3. スペインにおける違憲審査制度
    1. 緒説
    2. 憲法裁判所の裁判官
    3. スペインの憲法裁判所の権限
    4. 日本における違憲審査制度
  4. 練習問題

1. はじめに

本稿は、スペインにおける憲法を頂点にした法秩序を維持するための装置である「違憲立法審査」について及び違憲立法審査権を司る「憲法裁判所 (Tribunal Constitucional)」についての概説を試みたものである。

日本を含め、アメリカ合衆国では、具体的な事件の解決に付随して争われている論点(法律)が憲法に違反するか否かを検討する「付随的審査制度」が採用されている。

一方では、日本やアメリカとは異なり、スペインやドイツなどの国では具体的な事件の解決に関係なく、条約や法律や条令といったものが憲法に違反するかどうかを審査する仕組みがある。違憲審査制度は存在するが、違憲審査の具体的な事件の解決との牽連性の有無の違いが存在する。ここで、おそらく多くの読者はなぜこのような違いが生じるのかという問いが自ずと出てきたはずである。

本稿は、以下のステップを踏んで、違憲立法審査権についての概要及びスペインと日本の違憲審査機関の違いを中心とした比較法も試みたいと思う。

  1. 違憲立法審査権が憲法秩序上、認められるのはどうしてか。また、認められるようになった背景にはどのような考え方があるのか。
  2. スペインにおける違憲立法審査制度の概要について解説を加えながら、日本の制度との違いを概観する。

なお、本稿は、筆者が南山大学で開講されている「スペイン法」で特別講義を行った際の原稿を再構築して掲載している。講義で行った内容と比べ、やや詳しくウェブサイトでは掲載した。受講生だけでなく、受講生以外の方にも分かりやすく読んでいただけるようにするためである。また、講義を行ってからしばらく時間が経ち、データをアップロードさせた方が望ましいポイントについては、該当箇所については原稿を差し替える予定でいる。

スペインの違憲立法審査制度を司る「憲法裁判所」について単独で取り扱っている日本語のウェブサイトや書籍は、おそらく世界中探してもほとんど存在しないであろう。そういった意味において、簡単ではあるが、憲法裁判所について現地調査も含めた内容をこういった形で発表できるのは、自画自賛ではあるが嬉しいことであるし、意義深いことであるとも思っている。

最後に、このウェブサイトの公開の際に貴重なアドバイスをいただいたスペイン人弁護士のサルバドール・ロドリゲス氏に対して、この場を借りて感謝申し上げたい。


2. 違憲立法審査権の根拠

2-1 違憲立法審査権の歴史と国際比較

日本でもスペインでも、憲法に違反する法律や法律行為について審査する制度は憲法上で整っている。具体的な内容は後に譲るとして、ここでは「何故憲法で違憲審査制度を整えているのか。」という根本的な問題を考えてみたいと思う。

歴史的に見て、「違憲審査制度」が確立したといわれているのが、1803年のアメリカで起きたかの有名な「マーベリーvsマディソン事件」であり、それ以来、判例法においてアメリカでは認められてきた。他方、「大陸法」諸国では、「裁判所において違憲審査を行なうのは、民主主義および権力分立制度に違背するものである」と考えられてきたため、違憲審査制度は確立していなかった。これらの国々の間で違憲審査制度についての考え方が違うのは何故だろうか。

下記の表を見ながら説明していきたい。
 

-
イギリス
アメリカ
WWU前の
大陸法諸国
裁判所の地位
法の発見者
法律適合性の判断権者
法律適合性
憲法適合性の判断権者
法律適合性の判断権者
裁判所が
判断する対象
行政が法に従っているか
行政が法に従っているか
国会が憲法に従っているか
行政が憲法に従っているか
行政権については
「行政裁判所」で判断
(「行政裁判所」=行政機関)
議会と
裁判所
への
信頼度
議会
高い 
低い
高い
裁判所 高い
高い
低い
理由 マグナカルタ以来、人権制度を保障してきたのは、法律を作ってきた議会と裁判所であったため。 イギリス議会の圧制のために立ち上がって独立したという歴史があるから+判例という形で法規範を作るため。 市民革命以前の裁判所は国王と結託して人権侵害の急先鋒を担っていたため。
立憲主義の
確立過程
との関係
議会中心主義
徹底した権力分立主義
議会中心主義
法に対する
考え方
法の支配
法の支配
形式的法治主義

イギリスでは議会と裁判所への信頼度が高い。議会が誤った法律を作るはずがないという議会への強い信頼及び裁判所が法規範を作っているおり裁判所への信頼が高いからである。イギリスの司法機関は、歴史的に見ても、王権の下にはあったものの、法律家は過去の似たような事例を探し出して法を創造していたため、過去の事例をきちんと分かっていない法律家以外の者たちにとっては難しく思えてしまうため、イギリスの司法機関は相当な独立性と信頼を持っていた。そういうことから、わざわざ制定した「法」について、憲法(イギリスは憲法典はないがそれにあたるものは存在する)や基本的人権の尊重に立脚した「法の支配」の考え方に反した法律は作られないであろうという意識が働き、違憲審査という考え方が法体系の中には存在しない。

それに対してフランスやドイツやスペインといった大陸法諸国の「国王」は、特に17世紀から18世紀の「絶対王政」の時代には司法部は完全に王権の下に組み込まれてしまい、かなり国王の意向に左右されるようになっていた。したがって、歴史的にも有名な「フランス革命」などで王政が倒れて人民による新しい政治が始まろうとした時に、司法部は「王やら貴族やらの仲間で胡散臭い」と見られ、法律家による創造性を認めてしまったら、革命に成功した側の利益を「屁理屈」によって奪われかねないと考えたため、できるだけ司法部の力を押さえつけ、国民(人民)から選出された議員から構成される「議会」で作る法律に司法部が拘束されることを望んだという経緯があった。

アメリカは、イギリス議会が作った悪法(悪政)が発端となって独立したいう経緯があり、議会に対する信頼度は高くない。そこで、司法機関が立法機関に対してチェックを行うという発想が生まれやすくなる。こうして、議会と行政府と裁判所が全く対等な立場をとり、徹底した三権分立の構造が次第に生まれたのである。

第2次世界大戦前のドイツやフランスにおいては、前述したとおり、市民革命前の議会が絶対王政を助けて人権侵害の急先鋒に立っていたということもあり、裁判所への信頼は低かった。これは、形式的に法律によって行政をコントロールしていこうという考え方、つまり「形式的法治主義」の考え方を反映したものである。この考え方が登場したのは、信頼できない裁判所にできるだけモノを言わせないようにしようという意図が働いている。

しかしこういった考え方は、最終的にはナチズムを生むことにつながってしまった。つまり、「基本的人権を保障する」ための法運用を特段する必要がないと考えられる「形式的法治主義」では「悪法もまた法なり」という考えにつながり、かえって国民の人権を侵害するということも、ナチスなどの例を見ても分かるように、起こってしまったのである。

戦後は、ナチスなどの法律による基本的人権の侵害を防止するために、まず憲法が最高法規であるということを憲法自らが制度的に保障した。例えば、国会での憲法改正の発議や改正するための定足数や議決数を他の一般法よりも厳しくするなどである。本稿で扱っている「違憲審査権」の確立もその1つである。ところが、通常の裁判所もまた先に見たように基本的人権を害したことのある歴史を持っているため、通常の司法裁判所とは違った別組織を作って、憲法上、原則禁止の特別裁判所を例外的に認めた「憲法裁判所」(フランスでは「憲法院」と訳される)を作っていったという歴史を持っているのである。

2-2 違憲審査権の根拠

芦部信喜「憲法 [新版]」(岩波書店・1997年)によると、憲法上の「違憲審査権」の根拠は2つあると言われていると述べられている。すなわち、

  1. 憲法の最高法規性
  2. 基本的人権の尊重の原理
である。

まず「憲法の最高法規性」については、憲法の最高法規性(日本国憲法第97条)を確保するためには、憲法に違反した法律が運用されることを防ぐことが重要である。したがって、憲法の最高法規性を守るために違憲審査権を認めているのである。

2つ目の「基本的人権の尊重の原理」は、前述した違憲審査権の歴史を見ても明らかなように、もし違憲審査をせずに法律を運用すると、人権に配慮しない法律も「有効」となる可能性がある。これがナチズムを生んだということは前述したとおりである。形式的法治主義を採っていたドイツやフランスも第2次世界大戦後は「実質的法治主義」、つまり「法の支配」の考え方とほぼ同様の「正しい」法律を運用するために違憲審査権を認めていったのである。

2-3 違憲審査の方法

このように、立法権や司法権に対する考え方の違いが現在の違憲審査の方法にも大きな影響を及ぼしているということは述べてきた。ここでは、現代において違憲審査の方法が具体的にどのようになされているかを見ていくことにする。

それは前述した歴史からも凡その予想がつくと思うが、2種類ある。「抽象的審査制度」と「付随的審査制度」がそれである。

抽象的審査制度」とは、特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な訴訟と関係なく、抽象的に違憲審査を行なう方式である。立法権に重きをおいて三権分立を考えて来たドイツなどがこの方式を採用している。この考え方は、違憲の法秩序を排除して、憲法を頂点とする法体系を築いていくことに重きを置いており、「憲法保障型」といえる。

一方の「付随的審査制度」とは、通常の裁判所が具体的訴訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で、適用法条の違憲審査を行なう方式である。この考え方は、伝統的な司法の概念に立脚し、個人の権利を保護することに重きを置いた考え方で、「私権保障型」といえる。


3. スペインにおける違憲審査制度

3-1 緒説

スペインにおける違憲審査の方法は、ドイツの「抽象的審査制度」を採用しており、憲法裁判所が違憲審査を行っている。憲法裁判所の規定はスペイン憲法に第159条から第165条の全8か条にわたって規定が置かれている。そして、憲法裁判所の細かい規定は、「憲法裁判所組織法 (Ley Orgánica del Tribunal Constitucional)」で別に規定を設けている (スペイン憲法第165条)。

スペイン憲法裁判所正面写真
[スペインの憲法裁判所正面]

私がスペインの憲法裁判所を訪問した時に機関弁護士 (letrado)から憲法裁判所についての解説を受けた時、

「憲法裁判所は、民主法治国家にとって必ずしも必要なものではない。しかし、人権が本来あるべきものであるために、ドイツに倣って作られたものである。これは司法機関として捉えるよりも、独立した国家機関として考えた方がよい。」
とおっしゃっていた。

なるほど、機関弁護士が述べられていたように、「憲法裁判所は民主法治国家にとって必ずしも必要なものではな」い。それはアメリカ合衆国の例を見ても明らかである。そして、もう1つのポイントとしてあげておきたいのは、「司法機関として捉えるよりも、独立した国家機関として考えた方がよい」という部分である。後述するように、スペインにおける憲法裁判所の裁判官は様々な国家機関から指名される。スペインの憲法裁判所は憲法秩序を守るための機関であると解するため、単なる司法機関として捉えるよりも憲法秩序を守るための機関として捉えた方が本質を突いている、ということを機関弁護士は言いたかったのであろう。いずれにせよ、スペインにおける憲法裁判所の存在意義というのはこのような意味を持っていると言えよう。

3-2 憲法裁判所の裁判官

憲法裁の裁判官は12名である。このうち、衆議院 (Congreso de los diputados)と参議院 (Senado)から4名ずつの指名、内閣 (Gobierno)から2名、司法全体会議 (Consejo General del Poder Judicial)という全国の裁判官の人事等を扱う司法行政機関から2名の指名で、15年以上の職歴を有する有能な法律家(裁判官および検察官、大学教授、公務員、ならびに弁護士)から選ばれ、国王が任命する。任期は9年で、3年毎に4人が選任される。憲法裁判所の裁判官は、政治上または行政上の地位、政党や労働組合の指導的立場、司法及び検察などの兼職を禁止している(憲法第159条)。

以下に示した表は、2004年6月15日現在の憲法裁判所の裁判官である。裁判官の名前が青くなっているのは、憲法裁判所の裁判所長官であることを示している。 憲法裁判所長官は、憲法裁判所の全体会議の推挙に基づき、3年の任期で、国王がその構成員の中より任命される(憲法第160条)。

(スペイン憲法裁判所ホームページより)
憲法裁判所裁判官 
裁判官
任命日
指名された
機関
Maria Emilla Casas Baamonde
1998/12/16
参議院
Vicente Conde Martin de Hijas
1998/12/16
参議院
Fernando Garrido Falla
1998/12/16
参議院
Guillermo Jimenez Sanchez
1998/12/16
参議院
Javier Delgado Barrio
2001/11/06
衆議院
Elisa Perez Vera
2001/11/06
衆議院
Roberto Garcia-Calvo y Montiel
2001/11/06
衆議院
Eugenio Gay Montalvo
2001/11/06
衆議院

Manuel Aragon Reyes

2004/07/08 内閣
Pablo Perez Tremps 2004/07/08 内閣

Ramon Rodriguez Arribas

2004/07/08 司法全体会議
Pascual Sala Sanchez 2004/07/08 司法全体会議

2004年6月15日に長官に選出された憲法裁判所長官のマリア・エミーリャ・カサス・バアモンデ女史(50)は、憲法裁判所の歴史上初の女性裁判所長官であり、労働法の教授資格を持った大学教授である。

このように生のデータを見てみると、制度が実際に運用されているという事実が分かってくる。法律学の学習は、制度の概要や理念といったものを学ぶだけでなく、実際に起きた事件(判例)や統計などにもきちんと目を配り、法制度がどのように運用されているかを自分の目で見るという学習も重要であるということを忘れてはならない。

3-3 スペインの憲法裁判所の権限

スペインの憲法裁判所は、スペイン全土に管轄権がある。これは、各州に憲法裁判所があるドイツとは異なり、「集中管理型 (jurisdicción concentrada)」である(憲法裁判所組織法第1条第2項)。そして、スペインにおける憲法裁判所は、以下のような権限を有している。

  1. 法律、判例及び国際条約の違憲審査 (憲法第161条第1項a号)
  2. 人権保障訴訟 (憲法第161条第1項b号)
  3. 国及び自治州の権限抵触の解決 (憲法第161条第1項c号)
  4. 自治州法規・決議の効力停止 (憲法第161条第2項)
  5. その他、憲法又は組織法が権限を付与する事項 (憲法第161条第1項d号)

違憲審査 (憲法第161条第1項a号)」は、字の如く、法律や法律の効力を有する規範・過去の判例・国際条約が憲法に違反していないかを審査することである。審査には、法律が適正な手続きで成立したかどうかを審査する「形式的審査」と、法律が憲法の規定又は理念に合致しているかどうかを審査する「実質的審査」の2種類とも行われる。スペインの憲法裁判所では、具体的な裁判に付随して行われる違憲審査 (cuestión de inconstitucionalidad)も行われる (通常の司法裁判所のプロセスにおいて、裁判官もしくは裁判所の職権または当事者の申立てにより、そこで適用される法律に憲法違反の疑いがあると判断される場合に問題を憲法裁判所に移送する手続)が、前述しているとおり、具体的な裁判に付随しない「違憲の訴え (recurso de inconstitucionalidad)」を起こすこともできる。但し、訴えを起こすことができるのは、内閣総理大臣、護民官、衆参各議員50名以上、自治州政府及び自治州議会のみである。

ここで、「違憲審査」によって「条約」に違憲判決が下され、憲法改正が行われたという実例を挙げることにしよう。

[事例]

スペインは1978年に現行憲法が施行されてから後に、フランコ体制時のヨーロッパ内での低地位からの脱却を図り、1986年には隣国のポルトガルと共にECに加盟した。その後、1992年2月に調印された「マーストリヒト条約 (Tratado De Maastricht)」で、ECの経済・政治統合の推進を目的として、欧州連合(EU)の創設、経済・通貨同盟の設定、共通の外交・安全保障政策、欧州市民権などが規定された。しかし、条約の批准の際に、スペインで「憲法問題」が発生した。外国人の「地方参政権の問題」である。
「参政権」については、スペイン憲法第23条で「市民は、直接に、又は定期的な普通選挙において自由に選出された代表者を通じて、公事に参加する権利を有する。(Los ciudadanos tienen el derecho a participar en los asuntos públicos, directamente o por medio de representantes, libremente elegidos en elecciones periódicas por sufragio universal.)」と定めているが、実際に参政権が行使できるのは原則としてスペイン人である。例外として、条約によって外国でスペイン人と同じ程度で選挙権を認めている国の人に限って、外国人の地方選挙における選挙権を認めた。憲法の条文では、第13条第2項に、「スペイン人のみが第23条 [参政権]に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権につき定め得るところを除く。(Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo en las elecciones municipales.)」と規定されていた。
ところが、「マーストリヒト条約 (Tratado De Maastricht)」の調印により、EUに加盟している国の市民である「欧州市民 (Ciudadano Europeo)」に対して、被選挙権も含む、地方参政権を付与することになってしまった。憲法の解釈上、「欧州市民」に対して、「選挙権」を認めることについては合憲ではあるが被選挙権については憲法上規定がなく、「マーストリヒト条約」と「憲法」の規定が抵触してしまった。
スペイン政府は、「憲法に違反する条項を含む国際条約の締結には事前に憲法改正を必要とする」というスペイン憲法第95条の規定に則り、マーストリヒト条約に違憲性があるか否かの判断を憲法裁判所に仰いだ。
憲法裁判所は、
  1. マーストリヒト条約は、外国人の地方参政権しか認めていない憲法第13条第2項に違反する。
  2. マーストリヒト条約に合憲性を持たせるには、憲法の改正を行うべきである。
と宣告した。
これを受けて、政府は憲法第167条の規定(各議院の5分の3以上の可決が原則)に従って、地方選挙における外国人の被選挙権をも認める憲法改正案を提出し、1992年6月22日に衆議院本会議で、6月30日に参議院本会議で可決され、憲法第13条第2項が以下のように修正された。
改正前 改正後
日本語 スペイン人のみが第23条に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権につき定め得るところを除く スペイン人のみが第23条に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権及び被選挙権につき定め得るところを除く
スペイン語 Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo en las elecciones municipales. Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo y pasivo en las elecciones municipales.
原文ではわずか2文字であったが、憲法裁判所が機能して実際に憲法改正が行われた。この後、「選挙制度一般に関する組織法 (LEY ORGANICA 5/1985, de 19 de junio, del Régimen Electoral General)」などの関連法も改正された。
現行憲法下において憲法が改正されたのは、これが最初であり唯一である。

第2に、スペイン憲法裁判所は、「人権保障訴訟 (憲法第161条第1項b号)」を扱う。正当な利益を主張する全ての自然人、法人、護民官(オンブツマン)及び検察官が提訴資格を有する。対象となるのは、憲法第14条から第29条にかけて認められている権利および自由、ならびに30条で認められている良心的兵役拒否の権利に限られ、その他の権利は対象とならない。

憲法裁判所組織法においては、人権保障訴訟についての対象がさらに制限されている。憲法第14条から第29条にかけて認められている権利および自由、ならびに30条で認められている良心的兵役拒否の権利についての事件であれば、必ずしも訴えが提起できるわけではない。

  1. 国の公権力、自治州及びその他の地方的、法人的若しくは制度的性格を有する公的機関及びその公務員若しくは職員が行った処分、法的行為又は単なる暴力行為」(憲法裁判所組織法第41条第2項)によって、それらの権利や自由が侵害された場合であること
  2. 事前に「適切な司法的手段が尽くされている」こと

といった要件が満たされていなくてはならない。特に2番目のものについて言及すると、憲法裁判所に訴えを提起するには、まず通常裁判所における裁判手続を経ることが必要である。通常の裁判において申立てどおりの保護が与えられなかった場合に限り、いわば最後の手段として、憲法裁判所への提訴が認められる。

第3に、スペインの憲法裁判所は、「国及び自治州の権限抵触の解決 (憲法第161条第1項c号)」を行う。

スペインは、現在17の自治州 (Comunidad Autónoma)に分かれている。この自治州は、フランコ死後の1978年憲法下において認められたものなのであるが、どうしてスペインにこのようなものが設けられたのであろうか。実は、こういった自治州を設けなければならないほど多種多様な歴史や文化をスペインという国は抱えている。 詳述は避けるが、「スペイン」という中央集権的な組織がある程度完成されたのは、スペイン王位継承戦争が行われた1700年頃で、それ以前はイベリア半島内には複数の王国が存在していた。現在においても、スペイン国内にはスペイン語(カスティーリャ語)以外にも複数の言語が話されているぐらいである。言語が違うということは文化もまた違うということである。こういった国内で、画一的な中央集権的な地方行政を行なうのは難しいといわざるを得ない。地方のアイデンティティを中央の政府が認めている。

1978年に制定された現行憲法では、前文に「すべてのスペイン人及びスペイン各地方の住民を、人権の行使、その文化及び伝統、言語ならびに制度において保護すること (Proteger a todos los españoles y pueblos de España en el ejercicio de los derechos humanos, sus culturas y tradiciones, lenguas e instituciones.)」と謳っており、憲法第2条で地方自治を、第3条にカスティーリャ語(スペイン語)以外の国内の言語についての保障及び憲法の第8編においては地方自治の統治機構の条文が存在する。現行憲法は地方自治について大きな配慮をしている。憲法裁判所の大法廷の壁面にはスペイン国旗が掲げられているだけでなく、17の自治州の自治州旗が掲げられている。地方自治を保障することは憲法の価値を守ることといっても過言ではなかろう。現地で憲法裁判所を視察した際にこれらの光景を見たときに、筆者はそのように感じた。

さて、下の旗はスペイン国内にある17の自治州の自治州旗である。なお、自治州名については原語で「自治州」を意味する言葉が各自治州で異なるが、ここでの日本語訳は「自治州」と統一して記した。

アストゥリアス自治州
アラゴン自治州
アンダルシア自治州
イスラス・バレアレス自治州
アストゥリアス
自治州
アラゴン
自治州
アンダルシア
自治州
イスラス・バレアレス
自治州
エストゥレマドゥーラ自治州
カスティーリャ・レオン自治州
カスティーリャ・ラ・マンチャ自治州
カタルーニャ自治州
エストゥレマドゥーラ
自治州
カスティーリャ・レオン
自治州
カスティーリャ・ラ・マンチャ
自治州
カタルーニャ
自治州
カナリアス自治州
ガリシア自治州
カンタブリア自治州
マドリー自治州
カナリアス
自治州
ガリシア
自治州
カンタブリア
自治州
マドリー
自治州
ナバーラ自治州
バレンシア自治州
バスク自治州
ラ・リオハ自治州
ナバーラ
自治州
バレンシア
自治州
バスク
自治州
ラ・リオハ
自治州
ムルシア自治州
ムルシア
自治州

スペイン憲法では、国の専管事項と自治州の権限について細かく列挙されている(第148条、第149条)が、実際には自治州をめぐる管轄争いは少なくない。一般的な傾向としてではあるが、近年は国にあった権限を地方に委譲する傾向が見られるようである。

次の「自治州法規・決議の効力停止」は、自治州が行なう行政が憲法に合致していない場合、内閣が憲法裁判所に異議申立をすることができ、その期間、当該行政行為は一時的にストップしなければならない。一方の「国の権限抵触」の問題は、EU法とスペイン法の「抵触」が問題となる場合のことである。

最後に、スペインの憲法裁判所について、機能及び提訴資格者について簡単にまとめておきたい。

- 提訴資格者 条文
違憲審査 内閣総理大臣
護民官
衆参各議員50名以上
自治州政府
自治州議会
憲法第162条第1項a号
人権保障訴訟 正当な利益を主張する全ての
自然人、法人
護民官
検察官
憲法第162条第1項b号
但し、憲法裁判所組織法によるさらなる制限あり。
国及び自治州の
権限抵触解決
自治州の最高行政責任者 憲法裁判所組織法第63条
(憲法第162条第2項を受けて)
自治州法規・決議の
効力停止
内閣 憲法裁判所組織法第62条
(憲法第162条第2項を受けて)

3-4 日本における違憲審査制度

日本における違憲立法審査制度は、日本国憲法第81条に「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」という規定があり、日本にも存在する。

しかし、前述したスペインとは異なり、違憲立法審査権を有する独自機関は存在せず、司法裁判所の最高機関である最高裁判所がそれを握っている。これは条文の通りである。しかし、最高裁判所が、スペインやドイツのような「抽象的審査制度」、つまり具体的な事件の解決に関係なく条約や法律や条令といったものが憲法に違反するかどうかを審査できる権限を有しているのか否かが争われた。この点について、最高裁判所は、「我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行いうるものではない」(最大判昭和27年10月8日・警察予備隊違憲訴訟)と判示し、日本の最高裁判所は付随的審査権をもって違憲審査を行っている。また、違憲審査を行なうのは、明文上、最高裁判所とされているが、高等裁判所や地方裁判所など下級裁判所の裁判官も日本国憲法第99条の憲法擁護義務を負っているため、下級裁判所の裁判官にも違憲審査権を認めている(昭和25年2月1日判決)。

違憲審査の対象としては、「一切の法律、命令、規則又は処分」という憲法第81条に定められているとおりである。しかしここに「条約」という文言が含まれないため、「条約」が違憲審査の対象になるか否かが学説上争われている。この点、条約は国内で法規範としての効力を有するため、条約は憲法秩序にも包含されるため(憲法優位説)、条約に対しても違憲審査の対象となると解するのが通説・判例である(最大判昭和34年12月16日・砂川事件)。

違憲審査の効力は、判決の効力は当該事件に限られるが、国会は違憲とされた法律を速やかに改廃し、政治はその執行を控え、検察はその法律に基づく起訴を行なわないなどの措置を採ることを憲法は期待していると見るべきだとする、「法律委任説」が通説のようだが、判決の効力は当該事件に限られるべきであるとする「個別的効力説」や、判決の効力は議会による廃止の手続なくして客観的に無効となるとされる「一般的効力説」を唱える論者もいるようである。

最後に、スペインと日本の違憲立法審査の差異について表を使って確認しておきたい。

- 日本 スペイン
違憲審査の有無
違憲審査の主体 最高裁判所
下級裁判所(解釈による)
憲法裁判所
違憲審査と争訟の
関係
具体的争訟が前提
「付随的審査」
具体的争訟と関係なし
「抽象的審査」
違憲審査
の対象
法律 なる なる
判例 ならない (判例) なる (判例にも法源性ありとされた)
国際条約 なる (判例・通説) なる(但し事前に行われる)
違憲審査の効果 当該事件に限られる(判例・通説) 官報に公示された翌日

日本とスペインでは、上記の表の通り、大きく異なる。外国の法律を学ぶ際は、単に外国の法律制度や趣旨などの知識を吸収するのではなく、日本法と比較し、「どのように違うのか、何故違うのか」という視点に立って学んだ方が、彼国と自国の法制度の双方の有機的理解に結びつく。これだけではなく、様々な観点で様々な比較をしてみると面白いであろう。


4. 練習問題・発展問題

以下の問いは、この講義で学習したことについての確認問題及び学習内容の発展問題である。書籍やインターネットなどを使って調べても構わないが、自分の言葉で説明するように努めなさい。

  1. 違憲立法審査制度が誕生した背景について次の問いに答えなさい。
    1. イギリスにおいて、議会の信頼度が高いと言われている要因を論じてみなさい。
    2. イギリスとアメリカは、「法の支配」という考え方が根付いていると言われているが、「法の支配」の中身の差異はイギリスとアメリカの間には存在しますか。差異の有無及びその理由について答えなさい。
    3. 「形式的法治主義」とはどのような考え方か。「国会」「裁判所」という言葉を必ず用いて説明してみなさい。
    4. 「形式的法治主義」「実質的法治主義」「法の支配」の三者の内容の違いについて説明してみなさい。
  2. 「Marbury v. Madison, 5 U.S. (1 Cranch) 137 (1803)」について説明しなさい。
  3. スペインにおける憲法裁判所の裁判官について答えなさい。
    1. 指名権者は誰か。人数と共に詳しく答えなさい。(解答は複数あります)
    2. 指名権者が複数なのはどうしてか。また、人数の割り振り及びスペインにおける憲法裁判所の存在意義を踏まえて述べてみなさい。
    3. 被指名権者はどのような人たちが対象なのかを答えなさい。
  4. スペインの憲法裁判所の代表的な権能を4つ答えなさい。
  5. スペインの憲法は今まで何回改正されたか。回数及び改正の要因となった出来事について簡単に説明しなさい。
  6. マーストリヒト条約について簡単に説明しなさい。
  7. 「組織法 (Ley Orgánica)」とは何かを、通常の「法律」とどのような点で異なるかを踏まえて説明してみなさい。
  8. 日本で「違憲判決」が出た例は数少ない。違憲判決の出た判決を全て挙げ、内容について簡単に説明しなさい。

参考文献

 

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