トヨタ自動車取締役訪問記
 
 

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2000年11月28日に南山大学法学部黒田ゼミで行った
トヨタ自動車会社訪問の模様をお届けする。
あなたも黒田ゼミと一緒にインターネットでヴァーチャル会社訪問をしてみよう!


プロローグ

黒田ゼミは、夏休み明けの最初のゼミで恒例の会社訪問を「トヨタ自動車」に決定。幸いにも黒田先生の学生時代の同期の笹津恭士取締役とのつながりがあったからこそ実現した会社訪問であった。

それからというもの、それぞれ平成12年度のトヨタの株主総会の資料などを参考に質問事項を整理し、笹津取締役に質問事項を郵送して来るべき時を待った。

当日の11月28日。名古屋市東区にあるトヨタ自動車株式会社の事務所に午後3時を回り始めてからゼミ生が次々と到着し始めた。中には、懇親会の1時間も前に来ていた人もいた。すごい気合いの入れようだ。ちょうど前日に「東洋経済」でトヨタの特集をやっていて、それを買って読んで予習をしてくる人もいた。よほどワクワクしていたのだろう。

定刻の午後3時30分になったので、みんなでトヨタのビルの中に入っていった。


笹津取締役のご入場と自己紹介

招かれた部屋は、小会議室のようなところで、いわゆる「コの字」に机が並んでいた。その机の上には、「おいしいお茶」が置かれていた。席について笹津取締役の入場を待った。

会議室の扉が開いた。第一印象は気さくそうな方だと思った。ぼくたちは立っておじきをして、Kashiromanが黒田先生から紹介された。ぼくは頭を下げて、録音とホームページ公開の許可を願い出て、許可をいただいた。こうしていま、ホームページに文書を載せているのも、笹津取締役の許可が頂けたがゆえの帰結である。この場を借りて感謝いたします。

まず、笹津取締役の自己紹介が始まった。質問の中に、「トヨタ自動車の中には、取締役が56人もいる」とあったことから、資料を見ながら、トヨタ自動車のはどのような部門があるのか、各々の取締役が何を担当しているのか、を説明していただいた。また、笹津取締役が担当していらっしゃる部門、質問書で提出した項目に関する部門を中心に説明していただいた。

笹津取締役は、国内外を問わない数年先の商品開発、国内営業を担当していらっしゃるとのことである。


質問とその答え

1 持株会社について
トヨタ自動車は、日野トラックやダイハツ自動車などとともに、持株会社を設立するという話を耳に致しましたが、そのような計画は実際にあるのでしょうか?

また、持株会社をグループ企業全体で設立することになると、アイシン・エイ・ダブリュやデンソーのように他の自動車メーカにも部品を供給している会社はどのような立場になるのでしょうか?

何も決まっていない。

トヨタは、現場を大事にすることにより、60年やってきており、「頭で考えるのではなく、体で考える」ことに重点を置いている。頭で考えると、持株会社は、上に誰か、神様みたいに物事の全体を下から上がってくる情報をきちんと把握できて、それを取捨選択して、各々の会社に指示を出していくもの。情報が効率的に流れて、利益が上がる。株主に対しても、少ない投資で利益を上げられるから、良いように思われる。持株式会社の人が、絶対的な権力を持っている。しかし、それを突き詰めると、共産主義国のソ連が崩壊した理由を考えてみると、その1つには、一番上にいる人、組織が、常に正しい判断ができることが前提だが、彼らが現場と遊離した事があると思われる。トヨタが考える正確な判断とは、消費者の意見、販売店・組立工場の意見から得られる情報、つまり、体で覚えた情報を基に判断すること。グループ企業が集まって、効率的な営業をすることは望むが、現場を活性化させる手法と一致するシステムが、まだ見つからない。但し、税制などが整備されていけば、何らかのアクションがあるはず。

現在のところ、トヨタグループとしてはフォークリフトは、豊田自動織機へ統合。 住宅事業部門は、将来を見据えてやっていく。


2 株主総会について
1 株主総会招集通知について
現在の株主総会招集通知の方法として、商法は232条1項及び2項において、2週間前に書面でもって株主に通知するように規定しています。しかし、IT革命の時代と言われている昨今、電子メールでの総会招集通知を行なえるような法改正が計画されていると聞きました。このような法改正が行なわれた際に、電子メールによる総会招集通知を行なわれる計画はあるのでしょうか?
2 株主総会の決議について
株主総会の電子投票化についてどのように考えていらっしゃいますか?
経団連も、株主総会の電子化についての法改正を要求しており、トヨタ自動車は、その立場からも、その方向性を受けてやっていく。但し、電子メールについては、改竄などの犯罪行為を防止する方策が整い、法改正が行われれば、そのようにやっていくことになる。
Q「株主総会の招集には、どのくらいの経費がかかるのか?」
A「具体的には分からないが、相当なものと思われる。」
2 株主総会について
3 株主の代理人について 
商法239条2項には、株主は株主総会に代理人を出席させて議決権を行使できることが明記されています。しかし、商法上、代理人の資格については制限がありません。そこで、多くの会社が定款において代理権行使に制限を加える旨を規定していますが、トヨタ自動車は非株主についての代理権を認めているのでしょうか?
神戸地裁、平成12年3月28日判決(野村証券損害賠償事件)の通り。

定款には、代理人出席は認めるが、代理人資格は株主に限定する旨を規定している。しかし、判決が出た以上、実務では、それを考慮しないわけにはいかない。

つまり、代理人出席の旨を事前に通知してきた場合には、他の株主を代理人にすることを勧めるが、拒絶はしないということ。但し、総会が攪乱されることが明確である場合には、断る。


3 労働問題について
平成11年から労働基準法の女性に対する時間外・休日労働・深夜業の規制が緩和されました。しかし、家事・育児・介護など女性が男性より多く負担しているという問題なども多く残っています。例えば、育児のためにキャリア志向の女性が職場を去らなければならないようなことになったら、会社にとっても本人にとってもとても残念なことだと思います。女性が安心して仕事が続けられるように、ある会社では社内に託児施設を設けたと聞きましたが、トヨタ自動車では何か対策を講じていらっしゃるのでしょうか?
毎年、80人位を採用し、そのうち3割は女性。

雇用機会均等法以降、優秀な女性が育ってきており、重要な問題となってきている。何らかのアクションを起こしたいが、工場の事も考慮すると、大卒の女性のみに託児施設を開放することはできないために、相当な数の施設が必要になる。均等法の原則としては、福利厚生は特になく、能力給にすること。解決策は、見つかっていない。

Q「男子の育児休暇について」
A「現地法人については、その国の法律による。海外駐在員については、日本の基準で働いている。しかし、詳しくは、分からない。」

Q「いままでで、一番昇進した女性の役職は?」
A「均等法以前の女性で、次長。また、定年を迎える女性も多い。」


4 執行役員制度について
トヨタ自動車は取締役が56人いらっしゃるということを伺いましたが、56人という数字は他の会社と比べると大変多いように感じます。なぜ、これだけ多くの取締役を抱えておられるのですか?また、最近多くの上場企業で採用されている執行役員制度を採用されないのは何故ですか?
現場の“パルス”を分からなければ、取締役会において、採決すべきではないという、考え方から採用していない。採算がとれているかどうか、だけが問題ではない。
Q「取締役会は、議案を承認するだけの機関になってはいないか?」
A「取締役会の下には、経営会議など(専務会・副社長会)は存在する。それぞれの部門で会議を組むことはあっても、取締役会の機能は、失うようなことはない。」

5 カンバン方式について
1 カンバン方式とビジネス特許取得について
「他者が先にこの件でビジネス特許を取得して訴えを起こされないための防衛措置」とのことですが、「これをもって他者に特許料を求めることはしない」というのは少し疑問です。確かに軋轢が起こらずよいとは思いますが、特許出願にも費用は発生しているし、収益を見込めるのにそれを追及しないのでは株主に対して説明がつかないのではないのでしょうか?

また、カンバン方式や提灯方式が世界の自動車メーカーの標準になっている合理的生産方式であり、独自性があるようにも見えますが、これはもともとフォードモデルなのではないでしょうか?もしそうであれば、トヨタ自動車特有の技術はどのようなところに見ることができるのでしょうか?

T型フォードの生産方式は、全く同じ型の車を作る流れ作業。一人の人が同じ部品を組み立てる。そして、その過程でその在庫を持つ。
その在庫をなくしていこうというのが、カンバン方式。また、カンバン方式は、受注されてから生産ラインに入れ各々の志向にあった車を作っていける。

現在では、トヨタ生産方式として様々な自動車メーカーが採用しているので、このままではビジネスモデルにならない。カンバンをIT化し、電子カンバンにすることで、その部分をビジネスモデル特許として申請した。ITカンバン関係で、250件ほどの申請をした。

5 カンバン方式について
2 カンバン方式と災害について
カンバン方式は、2000年9月に東海地方を襲った豪雨のように交通網が遮断されてしまうと、工場操業可能にも関わらず、生産ラインを止めなければならないという短所があるように思えます。特に、今回のようなカローラのモデルチェンジ直後というタイミングで起きると、消費者への影響も大きいと思われます。それでも尚、数日間分の少量でさえ在庫を持つことのほうがリスクが大きいと思われますか?

また、カンバン方式なのに、どうして約1週間で生産再開が可能であったのでしょうか?2000年9月の豪雨だけでなく、阪神大震災のときにも同程度の期間で回復していたように記憶しているのですが。

在庫はお金と同じであるから、何百年に一回、何十年に一回という災害を想定して、それを持つことの方がリスクが大きい。また、在庫を持たないことにより、安い車を提供できるようになる。不時の災害に弱いことは確かだが、このままの体制で生産を続けていく。

6 環境問題について
これからは今まで以上に環境問題・資源問題など様々な問題が出てくると思われますが、自動車産業の未来をどのように考えていらっしゃいますか?ここでいう環境問題とは、主に大気汚染・騒音などです。例えば、燃費追求型プリウスと最重量級RVのランドクルーザー100系などは相反するように思えるのですが・・・。
第二次世界大戦後、特に人々の車に対する嗜好が多様化していることから、メーカーとしては、そのニーズにあった車作りをしていく。しかし、その中で、環境問題については懸命に改善していく必要がある。このような問題があるから、大型の車の開発をしてはならないという考えは、人の嗜好に合わない。

7 F1参戦について
モータースポーツは、営業にどれほどの影響があるのでしょうか。北米ではCART、そして欧州ではWRCに参加してきましたが、日本の若年層ユーザー拡大のためにはF1参戦が必要なのでしょうか?
F1に参戦する理由は二つある。一つは、トヨタ自体にも若いエンジニアがおり、 彼らの夢はやはり、自分達の技術をF1に載せたいと言うこと。そして、彼らが新しい優れた技術を開発し、一般車にその技術をフィードバックできる。もう一つは、ヴィッツやbBのように若者にトヨタを売り込むのに有効と考えられるから。

8 デザイン意匠について
これから、日本市場への外国者の参入がさらに増加することが予想されます。このような状況の下、自動車のデザインについても、問題が出てくると思われます。パソコン業界では、アップルコンピューター対ソーテック事件で顕著に見られましたが、これからはデザイン意匠も厳密に保護されなければならないと思います。この点、どのようにお考えでしょうか?
車について、デザインが盗まれたという訴訟は、まだ聞いたことがない。コンピュータの外形と自動車のデザインでは、かかるコストが全く違う。また、デザインは車の命であるから、真似ようとして、似たデザインの車を開発することはない。

9 異業種への参入について
金融業界への参入が規制緩和により、異業種からでも可能になりました。早速小売のイトーヨーカドーはIY銀行を立ち上げましたが、トヨタ自動車では、金融業界への参入は考えていらっしゃるのでしょうか?もし、考えていらっしゃるのなら、その第一目的は何ですか?
投資証券会社を立ち上げるという意味の金融業界への参入はする。また、すでに車を購入してもらう時のローンなどについては行っている。これ以降、さらなる参入は車に何らかの関連がある事になる。当面、銀行そのものをやる計画はない。

10 下請けについて
トヨタ自動車では、部品メーカーに対するコスト削減はどの程度までが適正と考えていらっしゃいますか?

またこのような要求に対応するため、素材産業の巨大化が進もうとしています。さらに、高炉メーカーなどは寡占化が進んでおり、このことは、将来において価格支配力が素材産業側に移っていくことを意味していると思います。トヨタ自動車では、どのような戦略をもって対抗していかれるつもりですか?

範囲が広範すぎて、答えられない。

エピローグ

こうして、1ヶ月にわたる「トヨタ自動車訪問」のプロジェクトは終了した。ここには書いていないが、その他笹津取締役ご自身の「働くこと」についての意義について貴重なお話を聞かせていただくなど、終始和やかなムードで進行していった。

最後に、このような滅多にない機会を与えてくださった黒田先生、場を提供していただいたトヨタ自動車株式会社の方、そして学生に対して気さくに接してくださった笹津取締役に対してこの場を借りて深く感謝申し上げ、「トヨタ自動車株式会社会社訪問レポート」は終了したいと思う。


<Links>

トヨタ自動車オフィシャルホームページ

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