スペイン研修旅行前

プロローグ

虎雄はいつものようにスペインのニュースを南山大学の情報センターのパソコンでチェックしていた。

「またETA関連の事件が起きたのかよ!!」

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ETAによるテロのニュースがまた流れた。ETAとは”Euskadi Ta Askatasuna”というバスク語の省略で、日本語で訳せば「バスクの自由と祖国」といった感じになるのだろう。ETAは、スペインのあるイベリア半島に侵入してきた様々な民族や政治勢力(例えばローマ帝国やイスラム)の進入を防いできたバスク地方で誕生した組織である。ETAは「バスク民族解放のために武装闘争も含めたあらゆる手段を用いて目標を達成するために結成された非宗教組織である」と宣言しているが、平たく言えば「テロ」を行ってでもバスク地方の文化やアイデンティティを守っていこうという組織である。確かに、マドリーなどの都会からの人の流入により、「スペイン」の文化と同化し、それによってバスクのアイデンティティ喪失に対する危機感が生まれ、バスクの文化や言語の保護や自治権を求める「バスクナショナリズム運動」が開始されたという歴史(経緯)があり、「地域色」を守るという、ある種の「ナショナリズム」が芽生えることは決しておかしな話ではない。さらに、バスクに対する中央政府からの弾圧もあり、その反動でETAのような過激な組織が誕生してしまう土壌ができてしまうのもそれなりには理解はできる。「暴力が暴力を生んでいる」典型例なのかもしれない、ひじょうに悲しい状況である。中央政府からされたことをまたやり返したところで犠牲者をまた生むだけなのだ。スペインのとある世論調査によると、スペイン人が一番不安に思っていることは何かというアンケートを実施すると、必ず上位に上がってくるのが「ETAを含んだテロ犯罪」なのだという。「バスクナショナリズム」を伝えたいというのであれば、言論できちんとした場所で訴えるべきであろう。やはり「暴力による紛争解決」というのは悲惨な結果しか生まないのである。

スペインにはバスク以外にも多くの個性的な場所が存在する。例えば1992年にオリンピックが行なわれたバルセローナ。そこではこんな事件が起こっていた。

  1. オリンピックではおなじみの「表彰式」の時に、カタルーニャ地方出身の選手が金メダルを取ったとき、「カタルーニャ自治州歌」及び「カタルーニャ旗」を掲げさせてほしいと懇願したという話。 (結局「却下」された)
  2. 開会式などの場内アナウンスは、「カタルーニャ語」「スペイン語」「フランス語」「英語」の順番に流れていたのと同時に、各国のプラカード (国旗を持った「旗手」の前に「国名」を掲げて行進している人が持っているもの)にも、「カタルーニャ語」「スペイン語」「フランス語」「英語」で書かれたものを持っていた。

バルセローナはスペインの東部に位置するカタルーニャ地方の中心都市である。この地方では、「カタルーニャ語」という「スペイン語」とは異なった言語が話されている。バスクのような暴力で独立を訴えるというほどの過激性はないものの、やはりスペインから独立したいと思っている人が存在する地方である。

スペインは「闘牛」とか「フラメンコ」を連想する人が多いが、これは一地方の文化に過ぎない。バスク地方やカタルーニャ地方にはそれぞれ固有の文化や言語が存在する。

挨拶の比較 
バスク語
カスティーリャ語
(スペイン語)
カタルーニャ語
フランス語
英語
Egun on.
Buenos días.
Bon dia.
Bonjour.
Good morning.
Arratsalde on.
Buenas tardes.
Bona tarda.
Bonjour.
Good afternoon. 
Gau on.
Buenas noches.
Bona nit.
Bonsoir.
Good evening.

 

虎雄たちが所属し、ゼミ形式で行われる南山大学法学部のスペイン語の外書購読の授業は、スペイン語を読みながら、スペインを取り巻く文化や法律について学習している。そんな彼らがこれからスペインを直接訪問し、直接スペインの文化に触れる機会を設けようとしていたのであった。

スペイン研修旅行決定

虎雄は早速スペイン語外書購読の授業でスペイン研修旅行の実施を提案してみた。時間的にはおそらく年度末で大学入試が一段落し、卒業式などが終わった後ということになるだろうか。

「黒田ゼミではスペイン研修旅行を不定期にではですが実施しています。前回は2年前に行きました。裁判所や国会などの国家機関・弁護士事務所などに行きました。授業で学んだ知識がどこで使われているか、目で見てみることは重要なことだと思います。いい提案でした。」

黒田先生はおっしゃった。このゼミは学生のやる気の有無によってゼミ活動が大きく変わる。太鼓の音ではないが、大きく太鼓をたたけば大きな音がなり、小さく太鼓をたたけば小さな音しか音はならない。黒田先生はゼミ生が大きく太鼓をたたいたときでもきちんと大きな音で返すことのできる先生である。あとは音がなる重要な要素、つまり「空気」の存在が一般のゼミ生にどれだけ存在するかである。

「予定が…」
「バイトが…」
「サークル活動が…」
「金が…」

今はまだ梅雨の季節である。いきなり、「次の年の3月の予定はどうですか。」と訊かれても答えようがない。しかし、この外書購読の授業を通して普通のスペインのツア旅行では決して周れない国家機関のような場所を先生の通訳付きで周ることができるのである。これはチャンスだろうとぼくは思う。

結局この話に積極的にのってきた学生は虎雄を含めて4人だった。

虎雄は、旅行会社を回ってプランに合うツアを選択し始めた。時間があればゆっくりスペイン周遊旅行を行って、スペインの各地域の文化に触れることで彼国の「よさ」を体で吸収することができたのかもしれない。ところが年度末に行くということもあってなかなかそこまでの予定が取れない。したがって「短期間でスペイン1周旅行」のようなものより、「旅行全体は短くかつマドリード市内に長くいられる」というのが絶対的な条件であった。

そんな中、あるツアを発見した。旅行パッケージ名をそのまま紹介すると、

「気軽にマドリード6日間、市内観光付き!」

というHISのツアだ。どの旅行代理店のパッケージのどの期間の価格と比較しても、あるいは上記の条件などを考慮しても、これがぼくたちにとって最善だった。

あとは具体的な日程調整だ。先生は大学のお仕事でとてもお忙しい。先生のスケジュールを最優先して、旅行の予定日を決めることにした。大学入試の試験監督や採点などで旅行をするには最も安いと言われる2月は無理だった。3月の上旬も様々な大学のお仕事があるそうで、結果として大学の卒業式が終わる3月20日以降という線で固まった。代金はこの季節にしては安い147,000円だ。

みんなで打ち合わせをした結果、日本出国日は2000年3月22日と決定し、4泊6日のスペイン研修旅行の大まかな部分はここで決まったのであった。そして、メンバーは虎雄、伸太郎、芳郎、ぼく(取材スタッフとして)そして黒田先生の5人であった。そして、予定は次のようになった。

2000年3月22日 (1日目)⇒ 旅行記はこちらこちら
時間
内容
11:40
(日本時間)
オランダKLM870便 (機種:ボーイング747-400) で名古屋空港を出発。
13:15
新千歳国際空港に一時着陸。
14:35
新千歳空港を出発。ここから10時間30分ほどを機内で過ごす。
17:10
(現地時間)
オランダで一番大きな国際空港、アムステルダム国際空港に到着。
19:10
オランダKLM 1707便(機種;ボーイング737-800)で、スペイン・マドリーのバラハス国際空港に向かって出発。
21:45
スペイン・マドリーのバラハス国際空港に到着。他の団体の到着を待つ。
25:50
ホテル「フロリダ・ノルテ」に到着。

 

2000年3月23日 (2日目)⇒旅行記はこちら(マドリード半日観光)こちら(上院)
時間
内容
9:00
ツアの中に組み込まれていたマドリード市内半日観光。但し、黒田先生は参加されなかった。 (スペイン広場・王宮・プラド美術館など)
13:30
プラド美術館でも有名なベラスケス像の前で黒田先生と待ち合わせをする
14:00
かつて南山大学に留学されていた弁護士のサルバドールさんとともに昼食を取る
16:15
スペインの「上院」を見学。
18:00 – 23:00 頃
先生とともにマドリード市内を散策。

 

2000年3月24日 (3日目)⇒旅行記はこちら(最高裁と憲法裁)こちら(弁護士事務所訪問とマドリード観光)
時間
内容
9:00
スペイン最高裁判所見学
12:00
スペイン憲法裁判所見学
14:00
サルバドールさんをはじめ、スペインの数人の学者とともに牛肉料理屋で食事を取る
16:00
サルバドールさんの所属する弁護士事務所(Cuatrecasas)を訪問する
17:45
先生と別れて学生たちだけで自由行動をとる
19:15
ソフィア王妃美術館見学。有名なゲルニカを見る。

 

2000年3月25日 (4日目)⇒旅行記はこちら
時間
内容
午前中
自由行動
14:30
「トレド観光」へ出かける
22:30
フラメンコ観賞に出かける

 

2000年3月26日 (5日目)
時間
内容
2:00
スペインが夏時間に変わるため、1時間時計を進める。
10:25
(夏時間)
オランダKLM 1700便(機種:ボーイング737-800)で、スペインマドリーのバラハス国際空港を出発。
12:55
オランダのアムステルダム国際空港に到着。
15:05
オランダKLM 867便(機種:ボーイング747-800)で、アムステルダム発大阪関西国際空港に向けて出発 (機中泊)

 

2000年3月27日 (6日目)
時間
内容
9:00
(日本時間)
関西国際空港に到着
10:00
シャトルバスで名古屋駅に向かって出発 (東名阪自動車道を経由)
12:00
伊賀のパーキングエリアで昼食休憩
14:00
JR名古屋駅太閤口前に到着。解散。

 

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