2000.03.24 (1) スペイン最高裁判所・憲法裁判所訪問

朝食

3日目が始まった。昨日と同じようにレストランに食事をとりに行った。メニューは、スペインの名産品ともいえる「ハム」がメニューに加わっていた。ぼくとしては、

(なぜ昨日はハムがなかったんだ…)

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と不満だったのだが、考えてみれば昨日は食べに食べまくっていたことを思い出して、

(ハムが出ていたら、間違いなく腹を壊していたな)

と考え直し、朝食をとった。今日はさすがに気をつけた。でも向かいに座っていた芳郎の「コーンフレーク」と「牛乳」しかのっていなかったトレイと自分のトレイを比べて、

(やっぱり今日も食べているな…)

と自分の食欲に唖然とした。

そうこうしているうちに、午前9時から最高裁判所に行かなければならないので、手際よく身支度を済ませてホテルを出発し、ホテルの最寄駅であるノルテ駅 (本当の駅名は「プリンシペ・ピオ (Príncipe Pío)」というが、ノルテ駅でも十分に通じる)に向かった。

朝の8時である。スペインの首都であるマドリードは、日本と同じくラッシュ・アワーの時間だ。日本と違うのは、周りにいる人間の多くがスペイン人であるというぐらいだろうか…。ぼくたちは人の波に飲まれながら、何とかメトロのプラットホームまでたどり着いた。

しばらく電車を待っていると、電車が勢いよく自分たちの方に向かって走ってきた。やがて、電車が自分の前を通り過ぎた。窓から鮨詰めになっている人たちが見えた。日本のラッシュの時間も顔負けだ。電車が減速すると、その様子がなお一層よく分かる。

「混んでいるから別れて乗りましょう。」

先生の一言で2つのグループに分かれて電車に乗ることになった。先生と虎雄がいっしょで、伸太郎、芳郎とぼくがいっしょになり、先生グループが先の電車で、ぼくのグループがあとの電車で、乗り換える駅で待ち合わせをすることになった。

(先生と虎雄とうまく合流できなかったらどうしよう…)

ぼくには一抹の不安がよぎった。目的地で会えれば問題ないかもしれないが、携帯電話もポケットベルも何も連絡手段のないしかも異国の地である。迷子というのは心理的にもよろしくない。

ノルテ駅から3つめの駅…。それが乗り換える駅だった。不安な気持ちを抱えながら電車から降りた。人の群れがいなくなるのを待ってホームを見渡してみたら… 2人の姿がなかった。

(マジで?)

ぼくは目が点になった。二人はどこへ行ってしまったのだろうかというのが一番不安である。目的地に着けるか否かはさほど問題はない。改札を抜けて、たとえぼくたちが間違った駅で降りたとしても、さっさとタクシーでも呼んでタクシーで最高裁判所まで向かえばよいからである。ぼくたちは言われたはずの駅で降りたらいるはずの人がいなくなっているからこそ困っているわけである。

ここで芳郎と伸太郎はいろいろと議論を重ねたが、結局自力で最高裁判所まで行くことになった。

まずその駅で地図を開き、駅員に地図を見せて片言のスペイン語で行き方を聞いてそれに従って乗り換えの地下鉄に乗り込んだ。そして言われた駅で降りて、そこからまた歩いている人を捕まえて場所を聞いてみた。当然ぼくにはできない。ぼくはスペイン語をきちんとやっていないことに後悔した。海外どこでも英語が通じると思ってスペイン語の勉強をしなかったのだ。フランスの首都のパリでは英語が話せる人が多いと言うことをぼくは知っていたようだったが、スペインの首都であるマドリードではその理屈が通じなかったのだ。かといってスペイン語の勉強のキャリアがある芳郎と伸太郎であっても完璧にスペイン語がそこまで分かるレベルではない。たまたま、

“¿Dónde está el Tribunal Supremo?”

というフレーズを覚えていたが、返ってくる答えを聞き取ることができない。相当に苦しかったが、何とか独力で最高裁判所に到着した。自分たちの力で最高裁判所に着いたという喜びはやはりあった。しかしながら、先生たちと無事に合流できることの方がぼくにとっては心配だった。

15分ぐらい経ったのだろうか、先生たちがぼくたちの方に走ってきた。ぼくたちはすでに最高裁判所の入り口の前に建っていた。

「君らの力でここまで来たのかね。」

先生の中には、ほっとした顔の中にも驚いた表情が見受けられた。しかしそんなことをしてはいられない。もう予定時刻だった9時は裕に超えていた。ぼくたちは急いで最高裁判所 (Tribunal Supremo)の中に入っていった。

スペイン最高裁判所

案内してくださったのは、ホセ・ルイスさんで、最高裁の事務官をやっていらっしゃる方であった。上院のときとは違って、ぼくたちのためだけに案内をしてくださった。この日は、たまたま裁判官任官試験があったため、最高裁のすべての部屋が見られるというわけではなかった。

スペイン最高裁判所

スペインの最高裁判所も、昨日行った上院と同様、もとは修道院であったという。最高裁判所の建物が建ったのは1755年のことである。最高裁判所として使われるようになったのはそれから約100年後の1860年のことであった。

そのせいか、「大法廷」の向正面(つまり傍聴席の壁)には十字架がある。その十字架は、宗教的な意味は全くない。もしあったとしたならば、スペインにもある「政教分離」に反するからである。ちなみに、スペイン憲法が施行される前(1978年)は、大法廷の真正面(裁判長が座る席の背後)にも十字架があったらしいのだが、憲法制定後に国王及び国民の名において裁判を行うため、十字架は取り外されたのだという。スペインの宗教と歴史の密接な関係を実感できた場所の一つであった。

スペイン最高裁判所刑事法廷

スペイン最高裁判所刑事法廷

スペインの最高裁は、80人の裁判官(長官を含む)と10人から12人の予備裁判官が存在する。日本とは大きな違いだ。日本は15人の裁判官しかいないのに、スペインは80人もの裁判官がいる。しかも「予備」がいる。予備裁判官は元最高裁判官で定年を迎えた人がなるものだが、場合によっては登記官や大学教授がなることもあるという。ただ、登記官や大学教授からの採用は、試験を通らなくてはならない。ぼくはこの時思った。

(どうしてこんなに多いんだ?)
(こんなにいたら裁判も迅速に進むなぁ…)

とホセ・ルイスさんから説明を受けながら、ぼくは考えていたら、

「行政事件が年間30000件に民事訴訟が40000件と、扱う事件が多くて迅速ではありません。」

とおっしゃっていた。スペインでは少額事件も最高裁の管轄権となっていたため、なかなか事件数が減らない。最近、民事訴訟法が改正されたようだが、それでも一向に減らないのだという。

「女性判事はどれぐらいいるのか?」

虎雄の質問だ。ぼくが昨日参議院で質問したのとパターンとしては同じだ。ぼくは、内心

「取られた!!」

と思った。それについては、次のように答えられた。

まず裁判官全体の人数は、地裁・高裁・最高裁全てで3700人ぐらいで、そのうち女性は15パーセントぐらい。20年ぐらい前(1978年憲法成立頃)は女性は裁判官にすらなれなかったが、女性で初めて裁判官になった人が48歳なのだという。ちなみに、最高裁に女性の裁判官はいらっしゃらない。ただ、近年は裁判官採用試験には女性の方が合格しているらしい。スペイン人にとっては、フランコ時代とはとても大きく違うものだと感じているに違いない。

ここで、スペインの裁判制度について紹介したい。

スペインの司法制度 (Poder judicial)の大きな特徴は、スペイン憲法第117条第5項及びスペイン憲法第123条第1項に見られる「司法管轄統一の原則 (El Principio de Unidad Jurisdiccional)」である。特定の人々や特殊の場合のみについて裁判権を行使する特別裁判所は原則として禁止されている(スペイン憲法第117条第6項)。

スペインの裁判制度は原則として三審制で、最高裁判所の下に日本でいう「高等裁判所」にあたる「県裁判所 (Audiencias Provinciales)」、地方裁判所にあたる「第一審裁判所 (Juzgados de Primera Instancia e Instrucción)」その他の裁判所がある。また、全国的規模における事件や国外犯に関わる事件を審理する「全国管区裁判所 (Audiencia Nacionales)」、各々の自治州内においてかつ自治州条例 (Estatuto de Autonomía)の定める範囲において控訴審を司る「自治州上級裁判所 (Tribunal Superior de Justicia de la Comunidad Autónoma)」が存在する。

日本とスペインの裁判制度を比較した場合に興味深い違いが存在する。それは、前述したとおり、原則としてスペインは「三審制」を採用しているのだが、ある特定の事件や人物の場合は「一審終結裁判」を採ることがある。王室や国家・政府に対する犯罪、貨幣に対する犯罪などは一審終結である(裁判所組織法)し、国会議員や内閣閣僚が刑事責任を問われた場合、事件ははじめから最高裁判所が管轄して一審終結の裁判を行うこと(スペイン憲法第71条第3項、スペイン憲法第102条第1項)が定められているという点である。日本でいえば、田中角栄首相が刑事訴追された「ロッキード事件」がもしスペインで裁かれていたとすれば、最初から最高裁判所で裁かれていたということである。日本ではかつて大日本帝国憲法下で、例外的に「皇室に対する罪」「国事犯(内乱及び外患に関する罪)」「皇族の犯した罪で禁固以上の刑に該当するもの」は「大審院(現在の最高裁判所)」が一審終結裁判として裁かれていた。有名な「大津事件」がその典型である。

また、スペインには陪審裁判 (Tribunal de jurado)が存在する。2000年3月現在において、日本には陪審裁判制度は存在しているが法律は停止されているので実施はされていない。今後、市民の司法参画を目指して陪審制度や参審制度の導入が検討されることになるそうだが、スペインの陪審裁判の状況というのも参考にするかもしれない。

最後に、まとめとして、スペインの司法総評議会 (Consejo del Poder Judicial)のホームページに掲載されていた組織図を参考に、スペインの裁判所の組織図を日本語で示すと以下のようになる。

スペインの裁判制度の略図

スペインの裁判制度の略図

このようにして、最高裁判所について、あるいはスペインの裁判制度についての解説をホセ・ルイスさんから受けた。ぼくたちはホセさんにお礼を言った後、最高裁判所をあとにした。

スペイン憲法裁判所

時計の針は10時30分を指していた。ぼくたちはゆっくりと次の訪問場所であるスペイン憲法裁判所へと向かっていた。ここでまたしてもぼくがお手洗いに行きたくなったこと、また疲れていたせいもあってちょっとした喫茶店みたいなところへ立ち寄った。昨日立ち寄ったバルみたいな雰囲気の店ではなかった。ぼくはお手洗いの場所が分からなかったので、持っていた携帯用のスペイン語の辞書を取り出して、

“¿ Dónde está el servicio?”

と慣れないスペイン語でその店のマスターに訊ねてみた。そうしたら通じるではないか!その時の感動は本当に帰ってきた今でも決して忘れることはできない。昨日、上院見学の後に立ち寄ったバルの中で、芳郎と虎雄が、

「スペイン語が通じてよかったね。」

という話をしていたことを思い出していた。

(なるほど、この気持ちも分かるなぁ。)

と思いながらトイレで用を足してから、先生たちが待つところへと戻っていった。しかしながらまた飲まなければならない。当たり前だ。ここは喫茶店だからだ。スペインには街に公衆トイレがない。ましてや街中で立小便なんかできるわけもない。だから、こういうところに入ってしかトイレがない。仕方なく飲みたくもないコーラをちびちびと飲んでいた。しかし、昨日に引き続いて国家機関たる「憲法裁判所」に遅刻するわけにも行かず、昨日の上院のぼくたちの行動を思い出して、すぐにこの店を出て、地下鉄(メトロ)で憲法裁判所へと向かった。

スペインの憲法裁判所

今回の憲法裁判所 (Tribunal Constitucional)は最高裁の事務官のホセ・ルイスさんに行き方を教えていただいていたので、迷わず時間どおりに着いた。ぼくたちは、金属探知機の検査をくぐりぬけた。ぼくはここでも探知機が鳴った。よほどスペインの探知機が敏感なのか、スペイン旅行が始まってから、プラド美術館以外のところでは全部鳴っている。特に昨日の上院ではひどかった。「はさみ」なんか持っていないのに「はさみ」を持っているなんて言われて結局カバンの隅から隅まで見られる羽目に。憲法裁判所ではそこまでは行かなかったが、あまりの金属探知機の「敏感さ」にうんざりしていた。

憲法裁判所のロビーで、昨日お会いした弁護士で南山大学法学部の先輩でもあるサルバドールさんと合流して、ブラジル人の女性2人とともに、憲法裁判所の審理法廷の傍聴席に案内された。案内していただいたのは憲法裁所属のletrado(「機関弁護士」と訳す)であった。

スペイン憲法裁判所の建物は昨日回った上院や今朝訪問した最高裁判所とは違って近代的な作りになっている。建物ができてから2000年3月現在で20年ぐらいしか経っていない。上記のスペイン憲法裁判所の写真を見ても分かるように、建物の形は球状で、内部も天井や壁面も球状になっている。また、憲法裁判所の審理法廷の壁面にはスペイン国内にある17の「自治州 (Comunidad Autónoma)」の州旗が17個掲げてあり、フランコの時代には決して認められることがなかった、スペインの現代の憲法の特徴でもある「地方自治の匂い」を建物から感じることができた。 ただ、デザインをあまりに凝りすぎたため、排水がうまくいかず、最近排水工事を行ったらしいが、まだ根本的な解決には至っていないらしい。

ところで、「憲法裁判所 (Tribunal Constitucional)」というのは、法律を勉強している人以外では日本人にはあまり聞きなれない言葉だ。それは当然で、日本にはないからだ。日本の裁判制度に、このような憲法裁判所という機関はない。スペインの憲法裁判所は、具体的な事件の解決に関係なく、条約や法律や条令といったものが憲法に違反するかどうかを審査する機関である。日本では具体的な事件の解決をする目的がなければ、条約や法律や条令が憲法に違反するかどうかを審査することができないのである。

憲法裁判所の裁判官は12名である。内訳は、下院 (Congreso de los diputados)と上院 (Senado)から4名ずつの指名、内閣 (Gobierno)から2名、司法総評議会 (Consejo General del Poder Judicial)という全国の裁判官の人事等を扱う司法行政機関から2名の指名で、15年以上の職歴を有する有能な法律家(裁判官および検察官、大学教授、公務員、ならびに弁護士)から選ばれ、国王が任命する。任期は9年で、3年毎に4人が選任される。憲法裁判所の裁判官は、政治上または行政上の地位、政党や労働組合の指導的立場、司法及び検察などの兼職を禁止している (スペイン憲法第159条)。

憲法裁判所は、大法廷と小法廷の2つの法廷からなる。

憲法裁判所の大法廷は全員の裁判官からなり、衆参議院議員50名ずつ・内閣総理大臣・オンブツマン・自治州が違憲審査請求を書面で提起こすことができ、

  1. 「違憲審査」
  2. 「国及び自治州の権限抵触の解決」
  3. 「自治州法規・決議の効力停止」

の事件を裁く。

「違憲審査」は、字の如く、法律や法律の効力を有する規範・過去の判例・国際条約が憲法に違反していないかを審査することである。例えば、スペイン憲法13条2項には「スペイン人のみが第23条 [参政権]に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の基準に留意し、条約又は法律により、地方選挙における選挙権につき定め得るところを除く。」という条文があった。しかし1992年にEU加盟国間とで交わされた「マーストリヒト条約」の中に、「「EU市民 (European Civilize)」に地方選挙権及び被選挙権を与えなければならない」という規定が存在した。この憲法第13条2項とマーストリヒト条約との間で「法の抵触」が存在することになり、政府が憲法裁判所に対して憲法と条約の「法の抵触」は違憲か否かをめぐって訴訟を起こし、憲法裁判所は「憲法と条約は合わない」という判決を出し、スペイン憲法は憲法改正の手続を経て改正されたのだ。これは、スペイン憲法第95条2項に定められた手続 (憲法違反の条項を有する国際条約を締結する際には憲法裁判所に合憲か違憲かを尋ねることができる) に従って行なわれたものである。ここで、スペイン語の原文と日本語訳とを載せておきたい。

Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo en las elecciones municipales.


スペイン人のみが、第23条に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の規準に留意し、条約又は法律により、市町村選挙における選挙権につき定め得るところは除く。

とあるところを、

Solamente los españoles serán titulares de los derechos reconocidos en el artículo 23, salvo lo que, atendiendo a criterios de reciprocidad, pueda establecerse por tratado o ley para el derecho de sufragio activo y pasivo en las elecciones municipales.


スペイン人のみが、第23条に認められた権利の資格者とする。但し、相互主義の規準に留意し、条約又は法律により、市町村選挙における選挙権及び被選挙権につき定め得るところは除く。

と、憲法改正といってもたったの2単語を加えただけのものであるが…。しかしその内容が大きく変わっているのはご理解いただけると思う。

次の「国及び自治州の権限抵触の解決」は、スペインの自治制度を説明しないと分からない。

スペインは17の自治州 (Comunidad Autónoma)に分かれている。この自治州は、フランコ死後の1978年憲法において認められたものなのであるが、どうしてスペインにこのようなものが設けられたのであろうか。実は、こういった自治州を設けなければならないほど多種多様な歴史や文化をスペインという国は抱えているのである。以前、テレビでも、カタルーニャ自治州のバルセロナというところで、

「あなたはスペイン人ですよね。」

とレポーターが何気なく質問すると、

「いいえ。スペインは向こうにあります。私はカタルーニャ人です。」

と返していたのである。終いには、

「ここはカタルーニャなのだからカタルーニャ語を話しなさい。」

とまで言って、そのレポーターを苦笑いさせていたのである。つまりそれぐらいスペインは地方色の濃いお国柄なのである。こういった国で画一的な中央集権的な地方行政を行なうのは難しいといわざるを得ない。必ずしも正確な言い方ではないが、そういった理由で自治州を認めたのである。自治州の首長は、アメリカのように州知事を州民の直接選挙によって選ぶのではなく、中央政府から任免された役人がなる。

スペイン憲法では、国の専管事項と自治州の専管事項が細かく列挙されている(スペイン憲法第148条、第149条)が、実際には自治州をめぐる管轄争いは少なくないようである。

次の「自治州法規・決議の効力停止」は、自治州が行う行政が憲法に合致していない場合、内閣が憲法裁判所に異議申立をすることができ、その期間、当該行政行為は一時的にストップしなければならない。一方の「国の権限抵触」の問題は、EU法とスペイン法の「抵触」が問題となる場合のことである。

一方の憲法裁判所の小法廷は、「人権問題」を扱い、正当な利益を主張する全ての自然人、法人、護民官(オンブツマン)及び検察官が提訴資格を有する。「人権保障訴訟」は、その前提として普通裁判所の裁判(何審でもよい)が要求されている。スペイン憲法53条2項には「如何なる市民も、普通裁判所に対し、優先主義及び予備審査の原則に基づいた手続により、また、場合によっては、憲法裁判所に対し、人権保護訴訟により、第14条 [法の下の平等]及び第2章第1節に認められた自由及び権利の保護を求めることができる。人権保護訴訟は、第30条に定められた良心の抵抗に、これを適用することができるものとする。」と述べられているからである。2000年2月末現在、憲法裁判所に提起されている1800の訴訟のうちのほとんどがこの「人権保護訴訟」である。訴えを提起した者は審査請求を憲法裁判所に対して行い、部会に持っていかれる。この部会は小部会、大部会へと進んでいき、憲法裁判所で扱うべき事件か否かをここで決める。そして重要なものは大法廷へと持っていかれる。95%ぐらいはこの段階で認可されないそうだが、しかし憲法裁判所で扱うか否かを決めなければならないのであるから、やはり大変なものなのであろう。それらが判断されたのち、ようやく口頭尋問へと手続が進んでいく。

憲法裁判所の問題点は、仕事が多すぎるということである。年間約6000件の訴訟を抱えていること。そのうちのほとんどは先程も述べたように、受け付けられないものがほとんどで、それを当事者に報告するだけでも大変で、もっとも大事な「違憲審査」の仕事がなかなかできない。また、憲法裁判所と他の裁判所の間の問題としては、合憲性と合法性を区別するのが難しいという。また、他のヨーロッパの憲法裁判所の関係でいえば、ヨーロッパの判例を国内に持ち込んで解決したり、最後の手段としては、EU裁判所に訴えを提起することで、他のヨーロッパの国の憲法裁判所との抵触の調和を図っている。そこはさすがはスペインがヨーロッパの国であるということを思い知らせてくれる。

その後、ぼくたちは憲法裁判所の図書館に連れて行かれた。ここにはスペインの判例・法律雑誌・本はもちろんだが、EU裁判所の判例・ヨーロッパの国々の法令・EU委員会等の書類が置かれ、ぼくが、

「日本に関する書類はないのですか?」

と聞いたら、英語で書かれた日本に関する書類はあるのだという。遠く離れた日本に関する書物があるのだから、ぼくにとってはそれだけで感動だ。

憲法裁判所での説明はとても分かりやすかった。虎雄も絶賛だった。


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